再生

第20話

 トンネルの端に落ちている押しボタンスイッチを踏むと、背の低いガーデンライトが点灯した。古い鉄道にはトンネル照明がないため、武史が自分で設置したものだった。ライトは片側の壁に沿って、ずっと先まで並んでいる。足下は明るく照らしていたが光は弱く、少し離れるとすぐに暗くなる。設置の間隔も広いため、蒼の顔はぼんやりとしか見えない。


 一直線に続くトンネルだった。ワームホールを繋げるためには、直線に伸びたトンネルが必要だったのだ。


 鋼や石を踏む足音がトンネル内に響く。武史はガーデンライトを数えながら走り、すぐに目印にしていた場所に着いた。入口からおよそ3キロ地点。


 あがる息を整えながら、蒼を地面にそっと寝かせた。ポケットから無線スイッチを取り出す。手のひらに隠れる大きさで、電源を入れると、すぐに6つのランプがスタンバイの緑色に光った。1番と2番を残し、スライドをOFFにする。


 入口付近に飛ばした光球が、躊躇なくトンネル内に駆け込むラムダの姿を捉えていた。目視で今来た後方を確認する。


 この先に弟のラムダがいる。弟ではあるが、あまり面倒を見た記憶はなかった。性格の違いからか意見が合わないことも多かった。それよりも戦友という想いの方が強い。同じ時を生き、闘った。だが、最後は敵対して終わる。タイミングを計り、武史は無線スイッチを押した。


 突然、周囲全体が爆発音に包まれ、トンネルが揺れた。強い風が吹き、咄嗟に武史は顔の前に腕をかざす。同時に全てのガーデンライトが消え、トンネル内は完全な暗闇になった。壁が崩れ、転がる石の音が余韻のように響き、煙の焦げ臭さに混じって僅かに甘い香りがした。


 トンネルに仕掛けた爆弾は、故郷の侵略を阻止するために、時間をかけて仕掛けたものだった。ラムダを生き埋めにする事が出来たが、何故か空しさを感じた。たったこれだけの事だったのか。


 ペンライトを取り出し、明かりをつけ、蒼を照らす。


「おい、川瀬!」


 名前を呼ぶが、呼吸が弱々しく感じられるだけで、相変わらず反応はない。市内の病院に行くしかないだろう。武史がペンライトを口にくわえ、蒼の背中に手を回すと、ぬめりとした血の手触りが伝わってきた。出血が酷い、間に合うだろうか。


 蒼を背負い、武史は再び駆けだした。

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