第18話
閃光と同時に、武史は蒼に向かって走っていた。身体を強ばらせ立ちすくむ蒼の肩を掴み「逃げるぞ」と声をかけるが、蒼の足は動かない。耳元で響く空気を切る音。咄嗟に手を引く。何かが鞭のようにしなり目の前を掠めた。
憤怒の形相をしたラムダ。背中に花びらのような形状の、黒い塊が4つ広がり、その先は触手となって蛇のようにうねっていた。
「もう半分はどこだ!」
予め白い石を半分に割り、半球となった片方を投げたのだ。ワームホールを繋ぐため、数百万の光球を凝縮させた、故郷の命運がかかった石だった。
蒼の手を引いて二撃目をかわす。間髪入れず武史の顔をめがけて、鋭く触手が伸びる。背中を反って避けると、素早く右腕を刀化させ、武史は跳躍した。
近くの木の幹に足をかけ、反動でラムダに向かって飛ぶ。触手は前後の動きに追いついて来られない。
腕を振り上げ、ラムダの首を刎ねる軌道を描く。だがラムダが間合いを詰めて来て、前腕で受けられた。押し合い、睨み合う。武史が叫んだ。
「蒼、走れ!」
立ち竦んでいた蒼が我に帰ったように顔を上げ、走り出す。黒い触手が逃げる蒼の背中を捉え、肩から腰にかけ一直線に切り裂いた。衝撃で再び崩れる蒼。
武史は刀化した右腕でいなし、左拳をラムダの顔面に打ち込んだ。皮膚にめり込む感触。ラムダが仰けに倒れる。
今度こそ首を刎ねようと、武史が右腕を胸に構えた途端、背後から触手が近づいてくるのを感じた。
一歩横に動き、振り向きざま触手を切り落とす。切断面から黒い血が飛び散り、落とした触手が激しく蠢いている。
再び振り向き、止めを刺すにはもう遅い。ラムダはすぐに体勢を立て直すだろう。武史はそのままラムダから離れ、蒼の元に駆け寄った。
蒼の服は、触手とは対照的に、真っ赤な鮮血に染まっていた。綺麗な切り口、だが深くない。蒼の体を仰向けにし、抱き抱える。腕の中で微かな息づかいを感じる。
武史は強く地面を蹴り、ありったけの力で走った。
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