第17話

 雨上がりのアスファルトが、夏の日差しを反射して輝いていた。真っ直ぐ歩いた先、自宅の前に、待ちかまえていた二人の姿が見える。弟のラムダと川瀬蒼だ。


 お互いの表情が分かる距離まで近づく。蒼は手を後ろで縛られ、恐怖で震えていた。こちらの姿を確認しても、顔は強ばったまま変わらない。ラムダが声を上げた。


「久しぶり、兄さん」


 言葉の中に殺気を感じるが、それより愛憎のような、別の感情が勝っているようだった。


「なぜ、その人がいる」

「たまたまさ、この人が訪ねてきたんだ。兄さんを心配して来たみたいだね。それよりさぁ。なんでこんな、無駄な事をやってんの」

「なにがだよ」


 ラムダが鼻で笑う。


「故郷を裏切って、どうなるのさ。兄さん一人で侵略を止められるわけがないだろう。プランは変更になったけど、地球人が僕らの食料となることに変わりはない」

「変更?」

「同じ地球人のくせに、戦争をしたがる、おかしな奴らがいるのさ、地球人同士を争わせ、時間をかけて家畜化した方が良い。案外変更になって、良かったのかもしれないな。何千人もの兵士を送り込んでも、爆弾一発落とされて終わりさ」


 ラムダが言う通り、故郷の侵略を止めることはできないだろう。分かり切ったことだった。理解した上で裏切り、闘っている。「それで?」と言いながら、武史は一歩、歩みを進めた。


「もしかして共存できるなんて、夢みたいなこと考えてる?」

「いや」

「やっぱり端っから闘うつもりなのか」

「ああ、だから、その人には関係ない。離せ」

「まさか、こんな女のために?」

「関係ないって言っているだろう!」


 空気が張り詰める。逃げだそうとする蒼の腕をラムダが掴み「石と交換だ」と言った。


 武史は腰ポケットから取り出した物を、確認させるように手を前に突き出して、指を開いた。手のひらに真珠のような白い石が乗っている。


「その人を、こっちまで歩かせろ」

「真ん中までだ。そこまで行ったら、石を投げろよ」


 腕を押され、蒼がよろけながら足を踏み出した。右、左とゆっくり歩いてから、堰を切ったように、走る。


 白い石をラムダに向かって投げた後、武史はすぐさま腰を落とし、下から腕を大きくしならせた。弾丸のように飛ぶ光球。大きな放物線を描く白い石に、光球が当たった。


 次の瞬間、石から閃光が放たれた。

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