第14話

 闘虫に囲まれて、武史は山中を走っていた。


 闘虫は故郷の生物兵器だった。体長20cmほどで、鋭利な歯と強靱な顎を持ち、獲物に食らいつくと死ぬまで離さない。驚異的な繁殖力を持っているため、いったい何匹いるのか分からなかった。


 武史は下に飛んで来た闘虫を蹴飛ばし、踏みつぶす。上から狙ってきたやつは、刀化した右腕で切り捨てた。


 上に下に目まぐるしく視線を移し、噛みつかれる寸前で打ち払う。一匹、上体を捻ってかわし、回転する勢いで別の一匹を真っ二つにした。先ほどかわした闘虫には、左腕で裏拳を当てる。殻を砕く感触がした。


 複数の闘虫が同時に襲ってくるので厄介だった。闘虫同士の連携は良く取れている。操っている奴は近くにいるのだろうが、姿は見えない。闘虫を思い通りに操るには相当な訓練が必要で、数人ほどしかいないと聞いたことがあった。


 急な斜面を滑り、武史は崖を飛んだ。かなりの数の闘虫が追いかけてくる。着地した場所のすぐ側に、沢が広がっていた。


 水面が脛ほどの高さしかない浅い沢で、透明度が高く水底が見えた。沢の幅は6、7メートルほどだろうか、流れは緩やかだった。沢の真ん中あたりまで入り、素早く周囲を見渡す。


 闘虫は間合いをとるように、距離を空けて囲んでくる。武史が歩くと、闘虫も同じ距離だけ飛んだ。徐々に闘虫が増え、何十匹もの羽音が重なり、騒がしくなる。何処かのタイミングで一斉に襲ってくるのだろう。来るなら来い! 


 武史は力を込めた光球を落とした。途端、水面が激しく沸き、泡立ち、揺れた。白い煙が立ちこめ、広がり、武史を覆い隠していく。沸騰は止まらない。やがて闘虫が飛ぶ間合いギリギリまで、煙は広がった。


 闘虫が羽を鳴らし、一斉に煙の中に飛び込んだ。

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