第13話
保科賢一の胸は、ずっと早鐘を打っていた。
廃校の屋上で二人の男が戦っていた。一人は身体に布を巻いた大男、もう一人は手に長い棒のようなものを持っていた。おそらく刃物だろう。二人が一端、離れたかと思うと最初の爆発が起き、大男の背中に翼が生え、空を飛んだ。派手な手品のようにも思えたが、その後、屋上全体は激しい爆発に包まれた。
賢一は一部始終を、屋上に出るドアの手前で、ハンディカムに捉えていた。とても現実とは思えない、スクープだった。
爆発が収まると、身を伏せながら校舎を出た。無我夢中で逃げるようにセダンを走らせ、駅で乗り捨てから、一番早い新幹線で東京に向かった。
***
翌日の昼前には、池尻大橋にある編集部のオフィスにたどり着いた。オフィスはマンションの2階で、ワンルームとしては広めの室内に、机が7つ並んでいる。オフィスにはメールで連絡しておいた編集長の堀切邦彦が、一人で残っていた。
「他のは?」
「取材に出てる。それより本当に、映像は取れてるんだろうな」
「当たり前だ! とんでもないスクープだぞ、とにかく見てくれ」
急いでハンディカムを自分のパソコンにつなぎ、再生させる。堀切は両目を大きく見開き、食いつくように映像を見つめた。
映像は、屋上全体が爆発されたタイミングで、揺れる校舎の壁が写り、終わっていた。賢一が思わず身を伏せたためだったが、地鳴りのような爆発音はしっかり撮れていた。
堀切が強引に唾を飲み込み、声が出す。
「驚いたな。何なんだこれは、現実か? SF映画じゃないのか」
「スタッフがいない映画の撮影があるか。仮に二人が爆弾魔だとしても、空を飛ぶのは理解できない」
「これが現実に起きたなんて言っても、信じられないな。いや、俺はお前が言う事だから、信じてるが」
「例の廃校を警察に調べさせたらいい。爆発の跡から何か分かるかもしれない。この映像の信憑性も出てくるだろう」
「とにかく、データをUSBに落としておいてくれ」
オフィスが禁煙なので、堀切はマルボロをポケットから取り出して、ベランダに向かった。賢一はコピー中の、パソコンの画面を見つめていた。
静かなオフィスに、突然ドアノブが下がる音がした。玄関の扉が開く気配、続いて足音。廊下から、上下黒い服を着て、フルフェイスのヘルメットを被った男が現れた。
「だ、誰だ!」
廊下の近くにいた堀切が怒鳴った。男が足早に、堀切に身体をぶつけると、堀切は崩れるように倒れた。床に血溜まりが広がっていく。
賢一は目の前のパソコンを抱えるようにして引っ張り、投げつけた。それから座っていたイスを持ち上げ、殴りかかる。男は怯み、両腕を頭上に掲げながら片膝をついた。
ショルダーバッグとハンディカムを掴み、デスクの上に飛び乗る。書類を飛び越えて隣のデスクへと移っていく。
見張りをしていたのだろう、もう一人、黒尽くめの男が入って来た。
賢一はベランダに出る窓を開け、そのままの勢いで、二階から飛び降りた。酷く足が痺れたが、構わずよろけながら走る。
怪我はしていない。大通りに出れば、すぐにタクシーがつかまるだろう。財布はある。タクシーに乗ったら警察に電話だ。いや、救急車を呼んだ方がいいのか? それから先は、何も思い浮かばなかった。
賢一は走りながら、何度も後方を確認した。
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