第12話

 キャップを被った少年が、高層ビルの屋上に立っていた。


 眼下に立ち並ぶ無数のビル群は、迷路の用に入り組んで、地平線の果てまでも続いているように感じる。その迷路のような都市を、点のように小さな車が連なり、蠢いていた。いったいどのくらいの人間が、ここで暮らしているのだろう。


 少年が空に向かって右手を伸ばす。広げた手のひらから、次々に光球が浮かび上がると、それは八方に広がりながら飛んで、薄く広がるうろこ雲に溶け込んだ。


「ミュウ」


 どこから現れたのか、女が一人、少年の後に控えていた。女は髪を後ろで束ねて巻き、清楚な面立ちをしている。瞳には決意の感情が映っていた。


「私にタウの仇を討たせてください」


 ミュウと呼ばれた少年は、女を一瞥して、またビル群を見渡す。


「裏切り者の始末にはラムダを向かわせてる。シータはプランBを遂行しろ」

「プランBより石の奪還を優先させるべきです。石があれば多くの仲間を呼ぶことだってできる」


 シータは悔しそうに、唇を噛んだ。


「お願い、ミュウ」


 吹き上げるような風が吹く。味気のない、乾いた風だった。しばらくの沈黙の後、ミュウは深いため息をつき、首を振った。


「好きにしろ」


 キャップを被り直し、再び、空高く右手を上げる。周囲の空から、先ほどの光球が飛んできて、ミュウの頭上に集まると、手のひらに飛び込むようにして消えた。


「次に行くぞ」


 そう呟くと、ミュウは拳を握りしめた。

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