第9話
夢が記憶の整理だとするなら、これも夢だろう。だが、これはタウの記憶だ。回収したタウの光球が、記憶の断片を見せているのかもしれない。
カイとタウは故郷では優秀な調査員だった。
故郷はとても小さな星で、食料資源が乏しく、調査員を他の星へ派遣し、食料資源を故郷に送るという地道な活動が行われていた。水分を多く含む石化した物質を故郷に送り、分解し、水を取り出したこともある。
ただ今回の計画は、もっと大規模なものだった。他の星への大規模な移住である。遙か遠くに、資源豊かな地球という星が見つかったのだ。計画の第一歩として、地球に送り込まれた調査員がカイだった。
イメージや言語情報はもちろん、物質や調査員を転送するにも、光球の共振エネルギーが用いられるが、光球を使えない者も多い。そこでカイたちは、故郷と地球の空間を繋げるワームホールを、長時間発生させて移住する計画を立てていた。
先発隊として地球を制圧するために、数千の兵士が、ワームホールの発生に合わせ、準備をしていた。だが、ワームホールは発生せず、カイからの連絡は途絶えた。
タウは苛つき、憤った。目の前には、見渡す限り赤い砂漠が広がっている。
「タウ?」
タウの横には、小柄で物静かな雰囲気の女性が立っている。
「シータ。カイはどうしてしまったんだろうな。光球を使った反応はあるから、生きているのは分かっているが」
「もういいの。タウ、カイは失敗した。何かトラブルに巻き込まれたのかもしれない」
風が砂漠の赤い砂を巻き上げた。二人は決意に満ちた眼差しで、いつまでも砂漠を見ていた。
***
別の記憶の断片が蘇り、彩られる。
球体転送装置の中で、激しい振動を感じながら着水の衝撃に備えた。水面に衝突する瞬間、中は無重力になる。それから装置は衝撃を緩衝して、光球に分解され、消えた。
海に落ちた。全身を包む、水の感覚。
腹の底から笑いがこみ上げてくる。水面に顔を浮かべ、息を吸うと、喜びの叫び声を上げた。
なんだ、この豊かな水は!
翼を広げ、ゆっくりと空に飛び立つ。水はどこまでも、見渡す限り続き、揺れていた。
これはタウの記憶だろうか、それとも自分のものだろうか。
空を見上げる。雲一つ無い、透き通った空。強い日差しが、身体についた水を蒸発させ、皮膚を焼いている。
青い星にたどり着いた。
***
トンネルの中で、武史は目覚めた。
入り口には朝の光が差し込み、夜が明けたばかりの澄んだ大気も、流れ込んでくる。武史はゆっくり立ち上がり、トンネルの外に出た。
近くの木に一匹の犬が鎖で繋がれていた。以前、ここで出会った野良犬だ。犬は甘えるように体を擦り寄せ、短く鳴いた。
「見張り、ご苦労さん」
犬の鎖を外し、持っていたドッグフードの袋を開け、中身を全て出す。
「食ったら好きな所へ行っていいぞ」
犬が勢いよく、ドッグフードに食いつく。武史は一度、犬の背中を撫でてやると、線路を歩き出した。
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