第7話
仲間の合図だと言うことは、すぐに分かった。仲間の間では、幾つかの光球を頭上高くに飛ばすことで、お互いの位置を確認し合う。そこは廃校になった小学校だった。
月明かりが、長い年月と雨風で色あせた校舎を照らしている。鳴海武史は校門を乗り越え、扉が開いたままの入り口から、校舎に入った。
相手の目的は分かっている。自分がどうしたいのか、どうしようとしているのかも、答えは出ていた。
真っ暗な下駄箱、長い廊下、低い階段を一段、一段と上がると、すぐに屋上へたどり着く。
屋上の一番奥で、汚れた布をまとい、タウと言うかつての仲間が待ちかまえていた。大柄な体格、布から突き出た両腕は、はち切れんばかりに筋肉が盛り上がっている。
「久しぶりだなカイ」
武史はそう呼ばれた。以前、タウと同じ星にいた頃の名だった。
「ああ」
「なぜ連絡してこない」
武史は少し間を置いて「ちょっとな」と答えた。タウが苦々しく声を吐き出す。
「ワームホールを繋ぐために、お前に託した石はどうした?」
「石はある」
「なら、なぜ繋がない。この地球ではわずかな年月でも、故郷では数十倍もの時が経つ。分かってんのか! 故郷はもう、限界まで枯れかけているんだ」
タウが校庭の方に視線を移す。その方角には、海があるはずだった。微かな潮の香りを、感じようとしてるのかもしれない。
「この地球とやらは素晴らしい。命を育む水が、こんなにも残っている。俺たちは地球に移り住むしか、生きる道がないんだ」
武史も目を閉じ、海を感じようとした。思い出したのは、故郷の海だった。
「覚えているよ、タウ。あのどこまでも枯れた海を。だから、本当に、すまない」
どのくらい感傷に浸っていただろうか、武史は目を開け、タウを見据えた。
武史の右腕が黒く変色し、肘から先がねじれ、尖っていく。日本刀のように反りがあり、刃にあたる部分が光を反射した。
タウの彫りの深い顔立ちが、眼球が飛び出すくらい歪み、力任せに食いしばった歯が剥き出しになる。
駆ける、一気に距離を詰め、矢のように突き刺した武史の右腕が、空を切った。寸前で避けたタウの岩のような拳が飛んでくる。
後方に跳び去りながら、武史は衝撃を受け流す。返す刀でタウの腕の切りつけるが、皮一枚を撫でただけだった。
間合いを取り、睨み合う二人。雲が月を覆い隠した。
「なぜだ、カイ、なぜだ」
武史は答えないまま、後ろ足を引き、腰を落とす。
タウが腕を横に薙ぐと、空気を押し潰す低い音と共に、十数個の光球が放たれる。光球の一つが閃光を発し、爆発すると、光球は次々に誘爆していった。
武史は爆発の下を滑り込む。刀となった右腕の切っ先が、タウのわき腹をすり抜け、黒々とした血が吹き出す。
代わりにタウの右拳が、武史の顔面を捉えた。
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