第6話

 保科賢一はD市の繁華街にあるビジネスホテルに滞在していた。


 ホテルはマスコミや研究者であふれ、中心地から離れた空き家でさえも、借りられているようだった。もっとも世間の関心は高く、テレビも雑誌もあらゆるメディアが、隕石の謎を採り上げている。賢一が所属する編集部にとっては、売上げ部数を延ばし知名度を上げるチャンスだった。


 とは言え、クレーターがある山は、国による管制が布かれ近づくことができない。賢一は当初の予定通り光の玉を調査していた。


 最初に受けた二人の小学生の目撃情報以後、光の玉に関する情報が複数件、上がってきており、一件ずつ直接、話を聴きに行く。


 アポイントを取り、待ち合わせの場所や時間を決め、レコーダーを使いながら話を聴き、メモを取った。かける時間と労力の割に、大した情報は得られなかったが、1つ気になることがあった。8割近くの情報が、ビルの上層階で目撃されており、光の玉は高く飛んでいる可能性がある。


 賢一は頻繁に、空を見上げるようになっていた。


***


 オレンジ色の夕空に、綿雲が広がり、綿雲の真ん中は陰となって、空にオレンジとグレーのまだら模様を作っている。


 山の上にある神社の境内。


 小学生たちの話が気になり、賢一は時間が空くと、人気のない神社や公園を、ホームレス風の男を捜して歩き回っていた。が、この神社にも手がかりは無かった。


 蝉の鳴き声が、途切れることなく重なる。騒がしさから逃れるように、賢一は階段を降り、山門に停めてあったセダンに乗り込んだ。


 エンジンをかけ、道幅の狭い山道を走る。


 この辺りは過疎化が進み廃屋も多いのだろう、あまりに人の気配がなく、不安になる。気を紛らわせるため、ラジオをつけ、ボリュームを上げた。


 日が落ちると、外灯が少ないためか、辺りはすぐ闇に染まった。


 道がカーブに差し掛かったとき、麓に見える建物の屋上で、何かが光ったような気がした。


 光の玉だろうか? 一瞬のことで、見間違いかもしれないが、確かめてみたい。


 賢一は車を停め、懐中電灯とハンディカムを持って、車を降りた。

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