第4話

 新たに光の玉が目撃されたと連絡を受け、超常現象を扱うオカルト雑誌の記者、保科賢一はD市へ車を走らせていた。


 3年前、D市を中心とした広い範囲で、直径2cmほどの空中に浮かぶ発光体が、数十観測された。


 最初に見つけた人々は、蛍だと思ったそうだ。だがそれは、けっして蛍ではなく、捕獲された光の玉を分析した学者は、未知の物体と結論づけた。この事がネットで話題になり、人々が一斉に捕まえようとすると、光の玉は忽然と消えてしまう。


 捕獲されたのは、たった7つ。生き物ではないのに空中を漂い、物体として箱に閉じこめることはできるのに、濡らすことも、燃やすこともできない、不思議な光の存在。潰すと霧のように消えてしまうそうだが、おそらく虫だと思った一般人が叩き潰しただけで、公式に確認された訳ではなかった。


 今もなお、光の玉は研究機関で分析中だという。


 車は東北道を降り、山間の国道を抜け、もうじきD市へ入ろうとしている。


 光の玉を捕まえれば一攫千金だと、一時期は一般人や海外の研究者がこの辺りにも押し掛け、あたりは騒然となった。けれどその騒ぎと時期を同じくして、失踪事件が起きた。


 二つの事件の間には、何の関係性も見つかっていないが、未知の物体への恐怖心が、失踪事件をよりオカルト的なものに演出した。光の玉は宇宙人で、失踪した人々を、別の星へと連れ去ったという噂が流れたのだ。


 気味悪がった人々の、好奇心は一気に収束し、それから三年、光の玉について有力な情報は無かった。


 今回の目撃情報も同様に、オカルト的な想像上の話なのかもしれない。発信元は二人の小学生で、一緒に変な怪人も見たという。


 そんな不確かな情報でも、賢一にとっては十分取材する価値がある。なにより賢一の中で、確かめざるを得ないカンのような衝動があった。


 車は海岸線沿いを走っている。


 左手には闇を飲み込んだような山々、右手には蠢くような暗い海。右に左にと交互に続くカーブを、速度を落として走っていく。緩い上り坂を越え、長い直線道路に差し掛かった時、賢一は車を停めた。


 赤い光を帯びた星が、夜空に線を引くように流れ、山に落ちた。直後に爆音が響き、僅かだが車内まで、衝撃の振動が伝わってくる。


 賢一は車を降り、隕石が落ちただろう山の方角を、ハンディカムに撮した。

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