第3話

「あれ、光の玉じゃね?」

「シャボン玉じゃあ、ないかな?」

「きっと光の玉だよ、捕まえろ!」


 二人の小学生男子が、下校中に寄り道をした公園で、光の玉を見つけた。光の玉は微かに白く光りながら、一階の屋根くらいの高さを浮かび、風に流される訳でもなく漂っている。


 興奮気味の子が、辺りを見回すと、また、大きな声を上げた。


「浩二、あそこに枝が落ちてる!」


 浩二と呼ばれた子は、少し面倒そうな顔をしながらも、言われた長い枝を拾って来て、光の玉を見張っていた、もう一人に渡した。


「はい、拓也くん」


 枝を受け取った拓也が、光の玉を叩こうと、手を伸ばし、つま先立ちをしてみても、枝は届かない。行ったり来たりと浮かんでいた光の玉は、二人との遊びに飽きたように上昇し、青空に消えていった。


「捕まえたかったなぁ。あれ、捕まえたら、高く買ってもらえるって兄ちゃん言ってたよ」


 拓也が枝を放り投げる。苦笑いしながら帰ろうとする浩二に、拓也は目を輝かせて言った。


「よし、探しに行こう!」

「探すってどこを?」

「光の玉が消えた方角は、小学校の方だから、とりあえず、ランドセル置いて、学校の裏山に行ってみよう!」


***


 小学校前の通学路に、遊歩道へ続く細い脇道はあった。


 脇道を進むと、さらに住宅が続く生活道路と、山へ続く遊歩道が枝分かれしている。遊歩道は舗装されたコンクリートから土に代わり、鬱蒼と茂る草木が、山を日常空間と線引きしているようだった。


 拓也と浩二は、そこから小学校の裏山に入った。強い日差しが山の中では和らぐ。気温も少し低く、空気が澄んで気持ちよかった。


「絶対、捕まえてやる!」


 拓也は虫取り網を振り回し、意気込んだ。


「3年前に捕まえられた光の玉は、どうやら生き物じゃないらしいよ」

「宇宙からの粒子みたいなのだって、テレビでやってたけどな。俺には何だっていいよ、捕まえれば儲かるんだから」

「光の玉を追いかけると、宇宙人に連れ去られるっていう、噂もあったよね。3年前、いなくなった人たちは、みんな、光の玉を追いかけたんじゃないかって」

「なんだよ、怖いのかよ」


 拓也の強い口調から、思わず顔をそらした浩二は、その言葉には答えず、しばらく道の先を見つめると、急に手を上げ、指して言った。


「拓也くん、あれ!」


 枝葉の間を見え隠れしながら飛ぶ、光の玉が見えた。光の玉は思いのほか早く、なんとか見失わないように走る。


「待てっ!」


 やがて見晴らし台にたどり着いた。遊歩道は見晴らし台を通り、少し引き返すようなルートで麓まで降りる。ここから上へは何かが祀ってある小さな社があるだけだ。光の玉は、その社へと続く急階段の方へ飛んでいく。二人は必死に、後を追った。


 急階段は道幅が狭く、横に伸びた木の枝が、登るのを邪魔する。枝を押しのけながら先頭を進んでいた拓也が、急に立ち止まった。


「誰かいる!」


 階段の一番上に、人影が見えた。汚い布をマントのように全身に巻いた大柄の男が、階段に座ったまま、じっと動かない。男は目を瞑り、空を仰いでいた。


 拓也は頬を流れる汗を、袖で拭った。後ろで、浩二が囁く。


「ホームレスかな?」

「シッ、見ろよ!」


 男の頭上に、複数の光の玉が、漂うように浮かんでいた。さらに光の玉は、木々の間から一つ二つと現れ、増えていく。


 不意に、男がゆっくりと立ち上がった。布の下に、人間の姿ではない足が露わになる。服も、靴も履いていない。肌はトカゲのような鱗に覆われ、足先は鋭く尖った大きな爪が生えている。


 二人は慌てて、男を背に階段を駆け下りた。

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