第14話 イコン

 小学生の時、友達の家でバザーがありました。

 いらないものを持ち寄って、売買します。


 私は出品するより買う方で、聖母マリア様が描かれた小さなメダルのようなものを買いました。

 銀色の縦長の楕円で、マリア様が祈っている姿が浮き彫りになっていました。


 軽い金属で作られていて高価そうな感じはなく、青い輪ゴムが付いていました。

 百円くらいで購入しました。


 夜、怖い目に逢っていたので、マリア様に守ってもらいたかったのです。

 クリスチャンでもなく、こういう物があれば、守ってもらえるのではないかという安易な考えです。



**



 その日の夜だったと思います。

 そのマリア様像を、体に着けて寝ることにしました。


 どういう用途かわかりませんでしたが輪ゴムがついていたので、その輪ゴムを腕にけました。そして眠りました。


 夜中に目が覚めました。

 家族はみんな寝ています。


 みんな寝ているのに、誰かが部屋に入ってきました。

 すっ、すっという、足音が聞こえてきます。


 びっくりしました。

 起きている人はいないはずでした。


 でも、起きることはせずに、目を閉じていました。

 すっ、すっという足音が近づいてきます。


 足音は、私の周りをグルグル回ります。

 ゆっくりとした足取りです。


 すっ、すっという足音が聞こえます。


 歩いているだけで、特に何かをするわけでもありません。

 ぐるぐる、ぐるぐる回っています。


―― マリア様のお守りがあるから大丈夫。


 ずっとそう思っていました。

 いつの間にか眠ってしまい、気が付くと朝になっていました。


 汗をかいてしまったのか、腕にゴムの青い線がくっきりとついていました。

 マリア様が守ってくれたのだと思い、次の日もそれを着けて寝ました。


 やっぱり足音はしました。

 毎晩、毎晩。


 その足音にも慣れてしまったのか、気にせずに眠れるようになっていました。


 何年も着けて寝ていました。

 けれど、いつの間にか、しないでも眠れるようになっていました。




 今、考えると、あの足音の原因がマリア様の像だったのではないかと……。

 私を守ろうとして、私の周囲を回ってくれたのかもしれません。


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