放棄した表現者(180分:「窓の外に見えるもの」「アパシー」「夕映え」)
ロッキングチャアに腰を下ろして外を眺める。いつ腰を下ろしたのかも覚えていないが、どうでもよいことだった。チェアに座って、時々揺らして、ずっと外を眺める。
窓越しに見える光景は森だった。木々があちこちから生えていて、それぞれがそれぞれ青い葉を茂らせていた。風もないらしい、揺れる様子もなかったし、窓越しに木の葉がざわつく音も聞こえなかった。
その光景を、ただただ眺めた。
ロッキングチャアに腰を下ろして外を眺める。いつ腰を下ろしたのかも覚えていないが、どうでもよいことだった。チェアに座って、時々揺らして、ずっと外を眺める。
窓越しに見える光景は夕焼けだった。木々を真っ赤に照らしてまるで燃えているかのよう。風が出てきたらしい、時折葉を揺らすようになった。ざわざわ、音が聞こえる。
木々の隙間から夕陽が見えた。強烈な閃光が葉っぱの間を縫って窓を貫通して顔に直射してきた。眩しくて目がやられてしまいそう。幾重にも重なる葉の間から照らされる陽の光は、しかし、丁寧にカットされたルビーが光を受けて複雑に輝いて見えた。
その光景を、ただただ眺めた。
ロッキングチャアに腰を下ろして外を眺める。いつ腰を下ろしたのかも覚えていないが、どうでもよいことだった。チェアに座って、時々揺らして、ずっと外を眺める。
窓越しに見える光景は森だった。しかしただの森ではなかった。故を知らぬ人、見たこともない人が幹に隠れていた。右側の方ばかりを気にしているから、窓越しにはその姿をはっきりと捉えられるのである。
一人、一人、また一人。三人がカーキ色の服を身にまとって、片手にはライフル銃を持っている。
一番右側の人が銃を構えた。刹那世界が静まり返って、凍った世界を突き破るのはその銃声だった。
その光景を、ただただ眺めた。
ロッキングチャアに腰を下ろして外を眺める。いつ腰を下ろしたのかも覚えていないが、どうでもよいことだった。チェアに座って、時々揺らして、ずっと外を眺める。
窓越しに見える光景はゲリラ戦だった。五人ほどの一団が森に隠れてどこかへ攻撃を仕掛けていた。銃声が止まらない。どこからか飛んできた銃弾で窓は割れてしまった。
五人組のそれぞれが別の幹に移ろうとしていたところに銃撃の嵐である。
一人が糸の切れた操り人形のように倒れてピクリともしなかった。残った四人はまるで初めから存在していなかったかのように窓から見えないところに走っていった。
一人の兵士はピクリともしない。
その光景を、ただただ眺めた。
ロッキングチャアに腰を下ろして外を眺める。いつ腰を下ろしたのかも覚えていないが、どうでもよいことだった。チェアに座って、時々揺らして、ずっと外を眺める。
窓越しに見える光景は森だった。死にゆく森だった。あたり一面がオレンジ色だった。鮮やかな色だった。幹が爆ぜる。燃える。枝が落ちる。燃える。
いつからか横たわったままの兵士に赤々と燃える枝が覆いかぶさった。鮮やかな色の中に照らされる中、服は焼け落ち、それから体はただれてゆくのである。
その光景を、ただただ眺めた。
ロッキングチャアに腰を下ろして外を眺める。いつ腰を下ろしたのかも覚えていないが、どうでもよいことだった。チェアに座って、時々揺らして、ずっと外を眺める。
窓越しに見える光景は荒野だった。かつて森だったことを誰が信じられようか。一面が灰に覆われている。決して雪が降ったわけではない。純真な白さは全くないのである。うす汚い白色で、白い枝のように見える棒は兵士の成れの果て。
その光景を、ただただ眺めた。
ロッキングチャアに腰を下ろして外を眺める。いつ腰を下ろしたのかも覚えていないが、どうでもよいことだった。チェアに座って、時々揺らして、ずっと外を眺める。
窓越しに巨大なきのこ雲が生まれた。
その光景を、ただただ眺めた。
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