ヨウの日誌3(120分:「濃い霧」「夢」「ボーイミーツガール」)

XX月YY日 濃霧


 ジェニーと出会って半月が経とうとしている、と思う。

 思い返してみれば、突然この濃い霧に覆われた島に放り出されたのも彼女と出会うためだったのかも知れなかった。そう思わなければこの状況を受け止められない。


 今日は犬のような怪物と人のような怪物に遭遇した。


 犬のようなそれは体表を腐らせたような見た目のものや、ゴワゴワしていそうな毛に覆われたそれなど、複数匹いた。群れでなくて単体であったのが幸いした。半月も異常な場所に身をおいていれば、犬程度を倒すのは大したことではなくなっていた。ジェニーの手を汚させたくはなくて、なるべく俺が倒そうとしていたが、その多くはジェニーが始末してしまった。

 俺よりも彼女のほうが戦闘能力が高くて、ジェニーは「私がヨウを守るんだ」と笑ってくれたが、自分だってジェニーを守りたい。


 そういう意味では、人のような怪物を前にした時の自分はよく動けたと思う。革のコートをまとったスキンヘッドの巨人。三メートルはあったか。あるいは四メートル以上あったかもしれない。ところがどっこい自分と同じぐらいの背丈だったかもしれない。とにかく、その姿を見た瞬間、それの前に姿を表してはならないと本能が訴えたのだ。

 ジェニーはすでに戦闘態勢を整えていて、手に巨大なバールを構えてタイミングを見計らっていた。


 このままジェニーの本能のままに突撃させたら大変なことになる!


 その瞬間に俺はジェニーのバールを掴んで、すぐ近くの建物に逃げ込んだのだ。個人経営のスーパーのようなフロアの店内。この時から先が大変だった。

 何を思ったのか、怪物が建物の中に入ってきたのだ。

 何を思ったのか、ジェニーは倒そうと囁きかけてきたのだ。麻薬のようにとろけてしまう声だったから腕をつねって気が触れないようにしなければならなかった。

 怪物が俺らが隠れている棚に近づいてきた時はいよいよ運も尽きたと思った。しかしはたと脚を止めて、あたりを見回すなり出口へと足先を向けたのだった。


 ここ最近で一番のピンチを乗り越えた後は、店内に野菜と肉が残っているのを見つけて二人して喜んだ。見つけた瞬間は財宝を見つけたような気分で、二人して抱き合った。

 新鮮な食材を使って作ったシチューは久々の食事らしい食事だった。身にしみる美味しさにジェニーは泣いてしまうほどだった。実際空腹だけではなく心も満たされる、素晴らしい食事だった。


 体が冷えないうちにこの日は寝ることにする。店の二階は人が住めるようになっていて、毛布があったのだ。幸か不幸か、一枚しか毛布はなかったので、ジェニーと身を寄せあって寝ることになりそうだ。

 すでにジェニーの体臭が頭の中に充満している。実際はしていないのに、匂いで心が満たされている。

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