フラッシュモブ(180分:「カタストロフィ」「衒学的」「ユーフォリア」)

 若者支援総選挙! 今月末衆議院解散へ。

 年金政策を転換してその予算を若者支援に回す。国民の信を問いたい。

 若者支援のために衆議院を解散すると宣言して話題になった政治家がいたらしい。ネットのニュースでヘッドラインに乗っていたのを一瞬だけ目にした。しばらくしてから別のネットニュースで目について、内容を読んでみればそのようなことが書いてあった。

 驚くべきことに私の目の前にその政治家を見ることになったのだが、しかし彼を見つけたのは天をつんざく一つの音がきっかけだった。

 主たる登場人物は二人。灰色スーツの政治家と、そのそばに立つ天然パーマのおばさん。おばさんが身に着けている服はなんとなくPTAやご近所付き合いで威張っている感を覚える。要は不釣り合いな服だった。

 なぜ政治家はスーツを赤く染めているのか。

 天然パーマはどうして片手に拳銃を握りしめているのか。

 この広場で発砲があったこと、政治家がたおれたことに気づいた人々は絶叫を上げながら逃げ惑った。二人から逃げる人もいれば、どこで事件が起きたのか分からないまま駆けまわって、運悪く震源地にたどり着いてしまったがために再び絶叫して逃げてゆくという人もいた。

 一方で、ぞろぞろと現場に集まってくる人たちもいるのだった。

「さあこの時、この不届き者の時代は終わったのです」

 やけに通る声が広場中に広がってゆく。一体どこに隠していたというのか、のぼり旗を組み立てながら集まってくる人がちらほらといるのだ。のぼりの骨組みを組み立てている人と、のぼりの布を誰かの骨組みに取り付けようと右往左往している人と。

 『日本繁栄の立役者に恩恵を』。『西沢政権にNO!』。『高齢者支援の拡充を』。

 のぼりに並ぶ文字は派手に修飾されていて、目立つことだけを考えられているらしかった。訴える言葉はどれも同じだった。それぞれ解釈すれば、今まで頑張ってきたおじさんおばさんをしてくれ、若者政策を指向する西沢政権は総辞職しろ、高齢者にもっと年金を払え。

 一団は西沢首相の最期を取り囲んだ。彼を明確に拒否する意思を掲げる。のぼりを見せる相手は死体だった。同じ思想を増やすべく作られた広告を、思想集団は首相へのあらゆる側面に対する拒否に利用した。

「革命が始まったこの瞬間を祝いましょう」

 射手は両手を広げて呼びかけた。よくよく見れば、肌の綺麗な若者がまざっていた。

「四年もの政権を思い出しましょう。戦後の復興、経済を支えてきたのは私達なのです。苦しい気持ちを抑えて、必死に家族のため国のために身を粉にして頑張ってきたのです。高度経済成長を成し遂げ、そしてバブルが弾けた不況の中でも歯を食いしばったのです」

 どこからともなく、ギターを背負った人が現れてBGMを奏ではじめた。

「そして今、私達はその勤めを終えたのです。今までの苦しみには当然対価があってしかるべきでしょう。支えてきた立場は支えられる立場になるべきなのです。それをこの反逆者はどう扱ってきたでしょう。まるで我々がしてきた恩をアダで返すような仕返し、高齢者向け社会保障を削減し、年収を基準とした年金受給条件の設定、そしてしまいには条件なしに年金給付額を減らすと言ったのです。我々の頑張りを無視したこの振る舞い、許してはなりません」

 天然パーマがスピーチをする中、円陣で様子を眺める一団は時折賛同の声を上げた。あたかも予め打ち合わせしたかのようにセリフがとび交う。

 その裏ではたくさんの楽器を抱えたグループが近づく。

「私がこの愚行を断ちきりました。たった今、私が防いだのです。誰も成し遂げられなかったこの偉業、これは終わりではないのです。偉業はまだ続きます。私が成し遂げるのです。我々の理念が達成されて初めて偉業は実現します。では誰が偉業を成し遂げるのか? 私以外に誰がいますか?」

 一斉に一団が名前を叫んだ。地の底から湧き上がるような激しい音は一糸乱れぬ『シミズトモヨ』と叫ぶのだ。繰り返し、何度も。天然パーマの名前を呼ぶに合わせて拳を突き上げる。

 革命の決起集会。声や拳に熱がこもってくる。

「そう、私が成し遂げましょう! 私達のため、運命は動き始めました。まずはこの時を祝いましょう。全てが始まったことを皆さんと一緒に共有しましょう」

 天然パーマの背後のバンドが、タイミングを得たかのように演奏を始めた。小気味良いリズムとメロディが陣の熱気を更に盛り上げた。天然パーマがバンドに合わせて体を揺らした。ボルテージが伝播して、一人、また一人と思い思いの踊りを始めるのだった。

 その中でも天然パーマが最もセンスがないのである。

 とにかく、この瞬間から清水ともよ代表の戦いが始まるのである。その先にあるのは誰もが報われる社会、誰もが幸せになる世界である。


※今回の件、文芸担当の方は代表の作戦を実施の六時間後、ここまでの文章をインターネットに掲載してください。

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