第6話 近衛家のやんちゃ
──その日の午後、東二条邸の
今は、広さ3間ほどある寝所で、寝込む御父上様の周りに御母上様と共に集い、口の硬いお気に入りの女房を要所要所に配置し、話が外へ洩れないようたくさんの几帳や御簾などで周りを取り囲んでいる。
んで、御父上様がいま嘆いてる理由は、わたしを入内ではなく、女官にしようと内々に進めていたことが
「やから申したのやぁあ~っ。
それを聞いて、
「そんなこと、まだ分からないでしょ?」
「そうそう、
「さあ~てね? それはどうだか……」
「──!!?」
このことを内裏より急ぎ、左大臣の使いとして伝えにやってきた正五位 近衛少将・
その様子がなんとも腹立つけど。流石に、宮中内でも女房たちから囁かれる美丈夫だけのことはある。
だけどわたしは、そんなやんちゃを呆れ顔で迎え撃ち、(こっ……この野郎ぉ~っ!!)と半眼に見つめ口を開いた。
「……
「そんな畏れ多い。権大納言様が居られます所へ、滅相もないこと」
「今更、そんな気を使うような仲でしたっけ??」
「……」
そう言われ、やんちゃはスッと公卿らしく立ち上がると、御簾を潜り抜け中へと入り、几帳の直ぐ傍まで素直にやって来て、その場で同じくスッと座る。
やんちゃのクセに、いつの間にやら上級貴族らしい立ち居振舞いを身につけていた。
それにしても……。
(何を格好つけてんだか?? こっちは、
わたしは、そんなやんちゃを半眼の遠目のままに見つめ、そんな風に思った。そのあとで、わたしとやんちゃの間にある几帳を横へ「よいしょっ」と動かし、何も遮るものが無い状態にしてから正面に見つめ訊いた。
対するやんちゃの方は、そんなわたしの行動に、始め驚き次に呆れ顔を見せている。
「それで
「……そんなこと、私にも分かりませんよ。おそらく、
「「「──!!?」」」
それを聞いて、御父上様が「わあぁ~っ、もうイヤやぁ~っ」と再び嘆き出した。それを見て
そんな嘆いたところで、状況は何も変わらないのにねぇ~っ?
わたしがため息混じりに、そう思っていると。
「だからこうなる前に、この私と、素直に恋しておけばよかったものを……」
「…………」
わたしは半眼で、そんなやんちゃを見つめ、9割9分9厘以上の冗談で「へぇ~っ……。それならさぁ~っ、今からでも間に合う??」と前屈みでやんちゃに顔を近づけ、ひょうひょうと訊き返した。
すると
……まったく、そういうとこ可愛げがないんだからなぁ~っ。
──と、そこへ。
「御父上様。只今、内裏より戻りまして御座います」
「──おお、おおっ! 基近殿、して宮中の方はどないなってあらしゃりますのやぁあ??」
先ほどまで御布団の中で嘆き、塞ぎ混んでいた
御母上様とわたしも、それには興味津々で聞き耳をたてた。
そんな中、基近義兄は困り顔で小さく溜め息をつき、口を開く。
「
「「「「──!!?」」」」
まさかの結果に、御母上様も御父上様もやんちゃもわたしも驚かされた。
だって、九条家がこれからどうなるかを皆で心配していたのに。それどころか、わたしが宮中へ女官として入ることが、朝廷より認めらちゃったから。
早い話が、お咎めなし、ってこと??
そんな中、
「それは、左大臣さんのお陰であらしゃりまするのやろかぁ? それとも太政大臣さんやろか??
あとで御礼せなあかんなぁ~」
「……いえ、この度のこと。主上、自らが御決めになられたとのこの」
──!!?
御父上様も御母上様もわたしも更に驚いた。そして喜び、お互いに抱き合い安堵する。ただ一人、
が、そこへ。基近義兄様は、「但し!」と厳しい表情を見せ、付け加えてきた。
それで再びびっくりして、わたしたちは改めて抱き合うように一塊となり(何故かこの時、やんちゃまでどさくさに紛れてわたしに抱き付いてきて)、注目した。
基近義兄は、次に困り顔を浮かべ、小さな溜め息をつき言う──。
「主上が申すには……咲花を一目見て、気に入らねば入内の話は無かった事とする、との仰せであった」
「「「──!!?」」」
それを聞くなり、
…………いやいや、わたしってそこまでな訳っ??
そんな中、わたしは『よっしゃあーっ!』とばかりにガッツポーズを決める! だってそれって要するにさ、わたしが主上から気に入られなければ入内しなくても良いってことになるんだよねっ??
それだったら、簡単な話だよ♪
だけど世の中……予想もしない事が起こるってことを、わたしは後々知ることになる──。
◇ ◇ ◇
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