第3話 基近の義兄さまっ

咲花さな、余り御父上様を困らせてはなりませんよ」

「ぅ……そ、それは分かっておりますが…」

 

 話は元に戻って……わたしの義理の兄こと、従四位下・右近衛中将 九条基近の義兄様が、主上おかみからの入内じゅだいの一件について、説教たらたらと言って来たのだ。


、なんです?」

「…………」

 参ったなぁー。基近義兄さまがこういう態度で来た時には、余り下手に逆らわない方が良いんだよねぇ~っ……。


 さて、どうしたものやら?



 わたしがそうこう思案していると、御母上様おたあさまの隣に座る御父上様おもうさんが、ハラハラわたわたと気を揉み始め、うろたえ、何を勘違いしたのかこう言ってきた。


「まあまあ、基近もとちか殿。姫も突然の話で、驚いてあらしゃるだけやと思いますよってなぁ~」

「御父上様は、またそうやって咲花を甘やかそうとなさる。そういうのは咲花の為になりませんよ」


 そう言われ、御父上様おもうさまは申し訳ないとばかりに黙ってしまわれた。

 何とも頼りない。

 隣に座る御母上様おたあさんは、そんな御父上様を見て、やれやれとため息をついている。

 わたしも出来れば、この場で思いっ切りため息をつきたい心境だよ。


「……つい先程、好きな者が居るとのことでしたが。それは、どなたのことです?」

「……」

 そ、そんなこと……言える訳がない。

 それが、基近義兄様のことだなんて知られたら、御父上様おもうさまがまた失神してしまうもの……。


「そう……その相手次第では、どうにか出来るかとも思いましたが。言えないのであれば、致し方ないですね」

「……えっ?」


 義兄様はそう言い終えると、スッと立ち上がった。

 それから檜扇ひおうぎをピシャリと打ち鳴らし、改まった表情をして口を開く。


主上おかみからのたっての願い (入内)とあれば、どのみち無下には断れない。咲花には悪いが、この話、勝手に進めさせて貰うよ。

御父上様も、それでよろしいですね?」

「そ、そうですなぁ~っ……。それが咲花にとって、一番やと思いますよってなぁ。うんうん」

「……(くっ…! 結局は、毎回こうなってしまうのよっ……!)」


 義兄様は御父上様のその一言を聞いて、頷くと「それでは」と申し出て行かれた。


  ◇ ◇ ◇

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