空の下、地の上。
たがみ
第1話 左手
それはある朝、コンタクトをつけようと洗面台の前に立ったときのことだ。
保存液に漬けたコンタクトへ伸ばした、その手が妙に小さいのだ。
気持ち悪さが喉元を襲う。まるで船酔いでもしたかのような感覚に、鏡の中の少女は顔をしかめる。
私はその手をよく覗きこんだ。
浅黒く日焼けした皮膚。
手入れのされていないムダ毛。
アトピーで掻きむしった手首だけが異様に白く、ガサガサと汚く広がっていた。
自分だって目を背けるようなものだ。お世辞にも綺麗な手だとは言えないだろう。
しかしそれにしたって、見れば見るほど不気味なそれは、まるで映画に出てくるエイリアンか何かの触手のようだ。
なんだこれはとしばらくにらめっこをしてやるが、あいにくこれから学校がある。
遅れた分を取り戻すようにテキパキと支度を進めるうちに、左についたへんてこな手なんか忘れてしまっていた。
空の下、地の上。 たがみ @leflet_f
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