第二章 口裂け女? ぶん殴ってやりますよ(涙目)

2-1

 朝、某マンションの一室。

 古谷はベッドの中、布団を被ってうなされていた。その顔には玉のような汗が浮かんでおり、とても安眠できているようには見えない。

 外では鳥が涼やかに鳴いているが、その程度では古谷を悪夢から覚ましてはくれないようだ。

 と、どこからともなく有名アニメソングが流れ出し――

「怪物だけはっ! ライム色した怪物だけはぁっ!?」

 そう叫びながら古谷が跳ねるようにして飛び起きた。

「はっ、はっ、はっ…………はぁ」

 ベッドに上体を起こして、周囲を見回す古谷。ついでに頬をぎゅっとつねって痛みを感じ、そこでようやく自らが体験していたのがただの悪夢で現実ではないと悟ったのか、ほっと胸をなでおろした。

「はぁ……夢か」

 時にはその悪夢が現実だった場合もあるのだが、そんなことを言っていたらキリがない。

 それでも一応悪夢が現実だった場合のことを考えて、「夢の中で見た物品が現実に現れていないか」周囲を確認して、ようやく納得できたのか古谷は額の汗を拭った。

「はぁ……ライム色した怪物っていったいなんだよ……怖すぎだろ……」

 そんな状況でもアニメソングはまだ流れ続けている。

 古谷は――いつもの服を着たまま寝ていた――ポケットからスマホを取り出し、アラームを解除する。そして靴を履いたままの足をベッドから下ろし、大きく伸びをした。

「う……んっ、良い朝だ。これで目覚めさえよけりゃなぁ」

 そんなことを言いながら古谷は着替えを開始する。

 ベルトからカランビットナイフ――コールドスチール・スチールタイガー――が収まったシースを外し、スマホ、財布、ハンカチと共に机の上に置いて、服を脱ぐ。

 その体は細身ながら筋肉質で、いくつもの古い傷跡がうっすらと残っていた。なにかで切られたような跡もあるし、丸い弾痕のような跡もある。

 そして服を着替えた古谷は右腰の後ろのあたりにシースを下げ、スマホを左ポケットに、財布を右ポケットに、ハンカチを尻ポケットに収めて、大きく伸びをした。

 これで、一日を無事に過ごすための彼の準備は完了した。

 そんな彼のお腹から、小さいが確かな音が鳴る。

「……腹減ったな」

 キッチンに歩いていった彼は、冷蔵庫の扉を開けて中身を確認する。保存食などが雑多に放り込まれているのを見ながら右の人差し指を顎に当てるが、なんとなく食欲がわかなかった彼はそのまま扉を閉めた。

「よし、外食するか」

 思い立ったが吉日、靴音を立てながら玄関へと歩いていき、解錠して扉を開く。

 そのまま外に出た彼は、また大きく伸びをする。

 外は涼しい風が吹いており、太陽が眩しかった。

 左手でひさしを作りながら、古谷は空を見上げる。雲も少ない空、青天がそこには広がっていた。

「うん、今日もいい天気だ」

 

 

 

 同時刻、高高度。

 単発のターボファンエンジンを搭載した無人偵察機――RQ-4グローバルホークが巡航飛行を行っていた。

 大型でのっぺりした戦闘機のような巨体だが、武装は搭載されていない。その代わり、偵察・監視飛行のためにそのペイロードは使われている。

 各種光学機器や合成開口レーダーを備えたその機体は、贅沢なことにたった一人――古谷の監視のために飛んでいた。

 マンションを出て行くその姿を捉えたグローバルホークは、衛星を介してその映像をとある場所へと送っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る