宝碧豊国、ベインレルルク
宝碧豊国、ベインレルルク
雨は天から降り注ぐ恵み、日の光は母なる大地の温もり。
実る果実は生きる源。新たな命を育みながら、別の命を喰らって生きることに感謝を込めて、自然と共にあり続ける。
それが緑豊かな大自然。森と共に生きる
奇妙か偶然か、国民のほとんどが
今では色国軍の一つとして数えられ、世界で最も豊かな国として認識されている。
村のほとんどはツリーハウスだ。
夜の豊国は夜行性の獣が食い物を探して彷徨っているため、地上で野宿などしようものなら一瞬で喰い殺されてしまう。
そのために豊国の村は木の上に家を作り、家と家とを繋ぐ吊り橋を作った。先人の知恵が、今の豊国の形を作り上げている。
例外で言えば、都と呼ばれる街ラルド・ディープだけが、獣の脅威に怯える心配なく夜を過ごすことができるのだが、今は内戦中につき、国中どこも危険地帯と化している。
国を二分する大きな紛争が長年に
だが均衡状態にあった戦いが、とある国が送り込んだ勢力によって簡単に崩れた。
国の名は
色国軍の一つを下し、囚われていた大罪人を味方につけて今、ありとあらゆる国を侵略している空中に浮かぶ要塞国家。
帝国の送り込んだ強者達は反乱軍に加勢して王国軍を圧倒的実力差で押さえ込み、長年均衡状態にあった勢力図をあっという間に崩していったのである。
これに対して豊国もまた他の色国軍に応援を要請した。
だがこれには反対する者もいた。何せ最も豊国と友好的な関係を築いていた国は、つい先日帝国の戦力に負けたと全世界に知れ渡ったばかりだったからである。
だが王は何代にも続いて友好的な関係を続けてきた国を信じ、応援を要請。受けた国の王も迷うことなく、要請に応じたのだった。
『高度、四千メートル。この真下が豊国です……が、本当にここから突入を?』
パイロットは再度、確認する。
その声音には、突入する彼らの不安を察してだろう心配の色が聞き取れた。
だがその心配する声音が返って突入する彼らの不安を駆り立ててしまったと、あとで気付いて失敗だったと後悔する。
が、嘆いている時間などなかった。
『構いません。初めての試みではありますが、我らが英雄を信じましょう』
パイロットより一回りは若い少女の声が、静かに強く答える。
直後、無線越しに開けられた扉から唸りながら入って来る風の音を聞いて、パイロットは制止する言葉を呑み込んだ。
『了解。ご武運を!』
「……では皆さん、行きますよ!」
無線を機内に抛った少女を筆頭に、次々と飛び込んでいく。
悲鳴を上げながら、手足をジタバタさせながら、あるいは飛び込んだ瞬間に気絶して仲間に抱えられながら、皆、空を切って落ちていく。
最後に一人、青年が飛び降りる。
直後、空を切って落ちていた彼らの落下速度は一気に低下する。
それこそ時間の経過速度が彼らだけ遅くなったかのように、ゆっくりと。
今まで肩で風を切り、雲に突っ込んでずぶ濡れになっていたのが嘘だったようだ。
フワリフワリ、
神話の天使が現れたときもきっとこれだけ緩慢で、落下という言葉が似合わないほど美しく軽やかに降りてきたから、降臨と呼んだに違いない。
故に彼らの上空からの突入作戦も、突入などと野蛮な言葉よりも、降臨という言葉の方が正しいように思えたが、細かく言えば、そう見えたのは一人だけだ。
橙色の短髪の下で輝く、万華鏡のように色彩を変える虹彩の瞳。
肩に羽織った外套の袖が揺れ、まるで天使の翼のようであるが、その色が漆黒であるが故に堕天使の降臨にも見える。
果たして豊国にとって、彼は災厄か救済か。
色国軍、
緑の国へ降りる。
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