現実とやさしさ

京介がインターホンを鳴らすとすぐに恵の母親が玄関の扉を開けた。


「あら、なっちゃんに京ちゃんじゃないの〜!すっかり大人になっちゃって!ほら上がって上がって!」

昔と変わらない、あの頃のままの恵の母親。“お邪魔します”と土足からスリッパに履き替える。

家の中も高校生の頃とあまり変わっていない…はず。


““懐かしいなあ…””


ふと口にした言葉は、隣にいた京介とハモってしまって。意味の無い気恥ずかしさに襲われた。

「相変わらず仲良いのねえ」

とにこにこしながら私と京介を交互に目をやる。

「そうみたいですね」

京介が他人事の様に何処か冷たく言い放った。


所で、とおばさんは話を続けた。

「なっちゃんと京介くんは高校卒業したあとどうしてるの?」


やっぱり来たか、この話。地元に帰ってくると必ず聞かれるやつ。

「私は舞台とかのセットに興味のあったので舞台関係の大学に進学しました」

「俺は…芸術系のとこに推薦で」



暫くすると、おばさんがうわごとの様に

「あの子は何してるかしら」

と呟き、思わず私の涙腺が擽られた。


そんな私に気づいたのか、京介はおばさんには分からないように背中をさすってくれて。

いつも京介に助けられてばっかりだなあ、なんて心の中で密かに思っていたりしていた。


京介の手は昔からおっきくて、何度も慰められてきた事を思い出したり、恵が私達の事を守ろうとして空回りしたり。そんなことを考えていたら京介がいきなり立ち上がる。


「すみません、用事思い出したんで帰ります。」

と言うと“奈津、行くぞ”と手を引いてそそくさと出ていこうとする。

「お邪魔しました…!」



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