都会の汚れた空気を吸ってから地元に帰ってくると、何故こんなにも綺麗なのか不思議になる。

1人で物思いに耽っていたら京介が口を開いた。

「奈津、あれ」

とだけ言いながら空を指差した。その先をみると、まだ雨が降っているはずなのに虹が出ている。

「久しぶりに見たなあ…」


無意識に口にしていたらしい。

「都内ではあんまり見られないんだっけ?」

「うーん…空が狭いから見えないだけだと思う」

実際問題、背の高いビルがありすぎて空がほとんど見えていない。その上、夜になっても街中は明るいので星なんて以ての外。

京介は都内に来る数少なかったっけ、と思い返してみる。

そうこうしてるに雨上がりの独特な香りが鼻腔をくすぐり始めた。

「そろそろ行こっか」

どちらともなく手を握る。これは恋人同士がやる甘いヤツなんかじゃなくて、もっとフランクな友達同士のヤツ。多分、女の子同士が手を繋ぐ感覚と同じものだと思う。

よく恵と私と京介の3人で繋いでいた。


「おばさん、元気かなあ?」

「元気だと思うよ、未だに恵がいなくなったのは一人旅に出たからだって思ってるらしいし?」

と少し可笑しそうに京介が笑う。


「おばさんのあのポジティブの塊みたいな思考ほんとに凄いと思う、私なんて帰ってこないって聞いてから半年以上はダメだったもん」

「お前はお前で弱すぎる」


こんなに軽く、失踪してしまった幼馴染のことを話せるのは京介しかいない。これはお互い様なんだろうなあ…



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る