第3話 歪み
6月13日、火曜日。曇り。
天道先輩と付き合い始めて、早くも三ヶ月が過ぎた。
あれからも先輩とは色々なところへと遊びに行った。
今のところ、先輩との付き合いは
だが、その一方で、私は変な噂を耳にした。
それは私の知らないところで、先輩に付き
私という彼女が居ながら、先輩に付き
そういえば以前、公園デートでもやけに先輩は疲れていると言っていた。
と、いう事は既にその時からその女のストーカー行為は始まっていたのかもしれない。
「許せない……!」
私の大切な大切な先輩を苦しめるなんて……!
こうなったら彼女である私が直々に出向いて行ってストーカー行為を止めさせるしかないだろう。
私はストーカーとの直接対決を心に秘め、ストーカーの情報を集める事にした。
私と先輩の幸せな日々をそんなやつに邪魔はさせない。
※※※※※※
意外にもストーカー女の情報はすぐに分かった。
それは私と同じ学年の『
私と同じく、先輩に優しくされたのを切っ掛けに付き
始めこそは少し馴れ馴れしい程度だったが、徐々にその行動がエスカレート。
常に先輩を監視する様になり、無意味にプレゼントを送ったり、勝手に彼女面する様になったり……現在は立派なストーカーに進化したらしい。
惚れた理由については私も似たような感じだし、その点については共感出来なくもないが、流石にストーカー行為は共感出来ない。
本当に先輩の事が好きなら、彼を苦しめる行為なんて論外だ。
私は彼女に下駄箱に呼び出しの手紙を入れると彼女からの
◆◆◆◆◆◆
6月16日、金曜日。晴れ。
手紙を出してから二日後。
彼女からの返事の手紙が私の下駄箱へと入っていた。
星宮さんも私に大切な話があるらしい。
大方、話の内容は予想出来るけど望むところだ。
その申し出、受けてあげる……!
※※※※※※
星宮さんの呼び出しにより、私は屋上へとやって来た。
この時期、特有の暑くてジメジメ空気が肌を
こんなところで長々とした話なんてしたくない。
私は屋上にて、彼女の姿を確認すると先手必勝とばかりに言い放った。
「貴方がストーカーだという話は知っています。だからこれ以上、先輩に付き
これだけハッキリと言えば伝わるハズ……。
そう思っていた私だったが、星宮さんは何を言っているのか分からない表情をしている。
これだけハッキリと言っているのに伝わらない。
人の話を聞かないという話もあながち間違いではないのだろうか。
私は強調する様にもう一度、同じ言葉を繰り返した。
それでもやはり彼女には通じない。
それどころか、私の方こそ先輩に付き
その一言に、私の怒りが爆発する。
ただでさえ、私としては大切な先輩がストーカー行為を受けてムカついているというのに、言うに事欠いてこちらをストーカー呼ばわりするなんて……!
許せない!
気が付くと私は怒りの全てを彼女にぶつけていた。
私達がどれだけ貴女に迷惑しているのか。
私達はただ幸せに過ごしているだけなのに、何でこんな邪魔をするのか。
自分だけ幸せならそれで良いのか。
その全てを吐き出した。
私の怒りを聞き、始めて星宮さんは動揺を見せた。
そして顔を真っ青に染め上げると泣きながら逃げる様にして走り去っていった。
その様子に少しだけ可哀想という気持ちも沸き上がるが、仕方がなかった。
下手に
だから
そう、これは彼女の為なんだ。
これを機に彼女もストーカー行為なんて事はせず、
見た目はそんなに悪くないんだし、その性格さえなんとかすれば彼女にもすぐに良い人が見つかるだろう。
私はスッキリとした晴れやかな気持ちで屋上を後にした。
◆◆◆◆◆◆
7月3日、月曜日。雨。
そう思っていたのに、まだ彼女は諦めていなかったらしい。
私の隙を見つけては星宮さんは先輩に会いにきていた。
それどころか段々と先輩も彼女に対して、心を開いている様な気がする。
何で!? 相手はストーカーなんですよ!?
先輩、その人に迷惑してたんじゃないんですか!?
なのに、何でそんな人と楽しく話なんかしているのか……。
私には理解が出来なかった。
「!」
そんな時、もしかしたらという思いと共に私はある事に気付いてしまった。
私の心臓がドクンと跳ねる。
同時に考えたくない、思いが頭をよぎる。
嘘……。
先輩に限って……。
私を裏切るハズが……。
私は必死にその考えを否定する。
しかしいくら否定しても私の中に生まれた疑惑は中々消えてくれない。
嫌、嫌だよ……そんなの……。
楽しかった日々が突如、壊された様な気がして、身体が震える。
私は力が抜けて、膝からガックリと崩れ落ちた。
目の前が真っ暗になったような感覚を味わいながら、私はついにその言葉を呟いてしまった。
「星宮さんはストーカーじゃなくて、浮気相手……なの? 先輩?」
◆◆◆◆◆◆
7月17日、月曜日。晴れ。
先輩の浮気疑惑から二週間が経った。
あれから先輩とは一度もデートをしていない。
何故だか会うのが怖かったのだ。
今、私は相当に酷い顔をしているだろう。
こんな顔のまま、先輩と会うなんて出来ないし、絶対に何かあったのかと
そうなった時、私には
そして私も聞き返してしまう。
確認してしまいたくなってしまう。
先輩、私に何か隠している事はありませんか? と。
そうすれば後はもう破局への始まりだ。
疑惑の真偽はともかく、彼女に浮気を疑われて気を悪くしない人などいない。
それは先輩といえども例外じゃないだろう。
だったら浮気を黙認する?
嫌だ、そんなのは絶対に嫌だ!
私以外の女と先輩が仲良くしているなんて、私には耐えられない。
かと言って、自分からそれを確かめる勇気もないし、もし本当に浮気だったら……そう考えるだけで泣きそうになる。
何とか先輩にバレずに真偽の確認が出来ないだろうか?
星宮さんにもう一度止める様に言う?
ダメだ。前回、あれだけハッキリと言ったのにあの女は全く
それどころか、私に見せ付ける様にしている
好意に関しても明白だ。
恐らくは何を言っても通用しないだろう。
先輩にも聞けない。
星宮さんは諦めない。
黙認なんて我慢出来ない。
だったら親に相談する?
ダメだ。こんなこと相談できるハズがない。
だったらクラスメイトに相談する?
それもダメだ。
そもそも私にはこんな深い相談を出来るほどの友達はいないし、思春期真っ只中の高校生にこんな話題、遊びの道具にされるに決まっている。
そうなったら、学校中の笑い者だ。
そんなのは私には耐えられない。
想像するだけで怖くなる。
身体が震える。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう……」
私は今の気持ちを日記に記しながら、いつしか泣いていた。
本来、この日記だって『私と彼のラブラブ日記』になるハズだったのに……。
これも全ては
私という彼女が居るのに、先輩に付き
先輩を誘惑して……!
アイツさえ、居なければ……!
アイツさえ現れなければ……!
私の中に黒い感情が満たされていく。
いつしか私はこの状況を打開する事よりも、彼女をどうやって私達の世界から消す事だけを考えていた。
「消す……?」
その時、私の中に
「はは、ははは……ははははははは!!」
そうか……。
そうなんだ……。
こんな簡単な方法があるじゃない……!
だって私達の世界に必要なのは私達だけなんだから……!
だったら邪魔者には退場してもらえばいい……!
口で言っても分かってくれないなら、仕方無いよね?
これは言うならば断罪だ。
私の大切な大切な先輩を誘惑した罪。
私達の世界に土足で入り込んだ罪。
だから星宮さん、貴女は私達の前から居なくなるべきなんだ……!
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