第2話 料理


 5月3日、水曜日。曇り。


 今日は天道先輩が私の家へとやってきた。


 本格的に大学生活からの独り暮らしが始まり、かたよった食事ばかりしているという先輩に私が手料理をご馳走する事になったのだ。

 初めは『そんなの悪い』と言っていた先輩だったが強引に私が招待した。

 だって、そうじゃないと先輩ったら外食やカップラーメンばかりなんだもの。

 だから今日はちゃんとバランスが良くて、尚且なおかつたっぷりと栄養のある物を食べてリフレッシュして欲しい。


 大丈夫ですよ、そんなに心配しないでも。

 こう見えても私、料理は結構得意なんですよ?

 だから将来、メシマズの嫁とかにもならないので安心して下さい! って、嫁とかちょっと気が早いですよね。

 私とした事が少し飛躍してしまいました。ごめんなさい、先輩。

 お詫びに食べたいスイーツとかあれば、それも作ってあげちゃいますね。


 あ、そうだ。何かリクエストがあったら何でも言って下さい。

 私、先輩の為なら何でも作るし、してあげちゃいますから。

 だから先輩。今日はお客さんとして堂々としてくれればいいんです。

 ただ、これは私のささやかなお願いなんですけど、最後に一言だけでもいいんで『美味かった』と言ってくれれば私は幸せです。

 その一言の為なら私は頑張れます。


 だから先輩、今日はたくさん食べていって下さいね。



 ※※※※※※



 ごちそうさまの合図と共に先輩が大の字で倒れ込む。

 どうやら私の料理が美味し過ぎて、たくさん食べ過ぎてしまったみたい。


 ふふっ、先輩ったら。

 たくさん食べて欲しいとは言ったけど、まさか作った料理を全部食べてくれるとは思わなかった。

 意外と大食いなんで少しびっくりしましたけど、凄く嬉しかったです。

 何時でも言ってくれれば、また作ってあげますから楽しみにしていて下さいね。

 それまでには、また料理のお勉強をして、腕を上げておきます。


 先輩、今、私、凄く幸せです。



 ◆◆◆◆◆◆



 5月6日、土曜日。晴れ。


 今日は先輩と一緒に近くの運動公園へ。

 いつも街中方面に遊びに行ってたのでたまには、こういうのんびりしたデートもいいと思います。

 公園内はゴールデンウィーク真っ最中という事もあってかチラホラと家族連れが目立った。

 優しそうな両親に見守られ、元気に遊ぶ子供を見ていると何とも言えない不思議な気持ちになる。

 だがそれは、不思議と心地良いもので心が暖かくなった。

 もしやこれが母性愛というやつなのだろうか?

 チラリと隣で寝転がっている先輩の姿を見て、何だか顔が赤くなった。


 それにしても、今日の先輩は何だか少し疲れている様だ。

 公園に到着し、ブルーシートを敷いた瞬間に先輩は横になってしまった。

 そして今では夢の中……。

 正直、彼女とのデート中に寝てしまうなんてどうだろうと思うところもあるが、先輩せんぱいいわく、妙に最近、疲れが溜まるとの事。

 だったら今日くらいはのんびり過ごしてもらうのもアリかなって思った。

 でもそれだけだと、私的に少し不満があるのでこれぐらいのサービスはさせてもらおう。

 私は先輩の頭を軽く持ち上げると自分の膝の上へ乗せた。

 所謂いわゆる、膝枕だ。

 眠っている先輩の顔を見つめる。

 普段、中々に見れない状況に顔がにやける。

 うーん、普段はカッコいい先輩だけどこうして見ると可愛い顔にも見えなくもない。


 ヤバい……。

 この状況、何て言うか。

 ハマりそうな自分が怖い。

 これも母性愛なのだろうか?

 まだ私には分からない領域だけど、いつかそんな未来が持てたら……いいな。


 私はゆっくりと流れる時間の中、確かな幸せを感じていた。



 ※※※※※※



「……はっ!?」


 気が付くと、私も先輩と一緒に眠ってしまっていた。

 慌てて時計を確認すると、時刻はもうすぐ12時を回ろうとしていた。

 ここに来たのが10時半くらいだから、軽く一時間半は私も一緒に眠ってしまった様だ。

 隣を確認すると、先輩はまだ眠っていた。

 危ない、危ない。

 ヘタしたら立場がさっきと逆になるところだった。

 もし先輩に寝顔なんて見られたら恥ずかしくて、お嫁に行けないよ……!

 あ、その時は先輩に責任取ってもらえば、私は嬉しいし、生き遅れにならないで一石二鳥じゃないか。


 そんな事を一人、考えているとようやく先輩が起きてきた。

 目を何度もパチパチさせ、辺りを見回す。

 そして、寝転がるだけのつもりが本気で寝てしまっていた事に気付くと、先輩は激しく土下座した。

 と、言うか思い切り寝てたけど、寝転がるだけのつもりだったんだ……。

 何度も何度も頭を下げる先輩をなだめながら、私は昼食にしましょうと提案する。

 それじゃあどこに食べに行く? という先輩に対して、私は不敵な笑みを浮かべる。

 そして私は本日の最終兵器をドラ○もん風に取り出した。


「手作り~弁~当~!」


 バッグから取り出したそれを見て、先輩が目を白黒させる。

 そう、実は今日公園デートに決まった時から私はこの計画を練っていた。


 その名も、手作りお弁当極楽大作戦!


 概要がいようは至ってシンプル。

 前回、好評だった私の料理・お弁当verを食べさせる事によって、先輩の胃袋をガッチリと掴んでしまおうという作戦だ。

 いつの時代も料理が出来る女は重宝されるからね。

 私の女子力を見せ付けてあげますよ!

 と、いう訳でそろそろ目も覚めた事だろうし、お弁当をどうぞ!


 もちろん、先輩に拒否権はありません。

 デート中に寝てしまうという大罪を犯した罪を償うのです。

 え? 私も寝ていた様な気がする、ですか?

 知らないですね。

 いいですか、先輩。

 バレなければ犯罪じゃないんです。

 某クトゥルフ神話が擬人化した者も言ってました。

 だから私はいいんです。


 でも安心して下さい。

 私もそこまで鬼ではありません。

 お弁当は全て先輩の好物ばかりですから、余裕で食べきれると思います。


 ただ1つだけ罰ゲームとしてお願いがあります。


 私に『はい、あーん』をさせてくれませんか?

 これ、彼氏が出来たら一度はやってみたかったんです!

 なのでお願いしますね、先輩!


 え? 拒否権?

 もちろん、ありません(笑)


 私はそう言うと、先輩に『はい、あーん』をやった。

 先輩は少し恥ずかしがっていたけどお弁当自体は美味しく食べてくれた。

 嬉しい。私の中の先輩への気持ちがまた一つ強くなりました。


 

 先輩、私、今、凄く凄く幸せです。

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