小鳩の恩返し

 数十分後、幼い子の遊具がいっぱいの公園に、二人は立っていた。


「私はあなたに助けてもらった小鳩です。あそこの街灯の上の巣から堕ちたところを……」


「え……」


 しばらくして手をポン。


「お父さんが死んだ時だ。確か冷たくなってたから公園に埋めたんだ。あれっ? なんでそんなこと知ってる」


「そこの茂みに、アイスの棒がたてられているのも、知っていますよ」


 ボロボロのアイス棒に「ことりのおはか」と書かれた墓が灌木の茂みを探ると確かにある。


「それが私を救ってくれたのです!」


「もう、何年も前のことなのに、なんで? なんで今さら現れたんだ」


(まず巣から堕ちた小鳩は絶望していました。そこへ人間の体温を受けて死にます。通りかかったあなたに丁重に墓まで作られ……)


「へえ」


 あんまり覚えてないよ。


(でも墓は犬に暴かれてしまいます。どういうことかわかりますか?)


「墓なんか作ったって無駄だってこと?」


(……犬は飼い主に連れられて去りました。そこへ野良猫がやってきて小鳩の亡骸を漁りました)


「そんな! 食べられちゃったの?」


(いいえ。気分を悪くした近所のおばさんが追い払ってくれました、でも小鳩の身体は虫に食われ、結局土に還りました)


「で?」


 ――ちょっと気持ち悪い話だな。


 純は居心地悪そうに身じろいだ。


「私は心置きなく天へ昇って天使資格を得ました。だから、あなたのおかげです。ここへ来たのは恩返しのためです」


 やばい! こういうの聞いたことある。


「じゃあ、ボクを天界へ連れて行って!」


「――平穏無事なところばかりとは限りませんよ?」


「いちいちうるさいな。できるんだろ? その口ぶりだと」


「まあ……異世界召喚は流行りですからね」


 流行りってわかんないけど。一応の説明を試みる。


「ふうむ、ようするにゲームのように、あなたがラスボスをたおせばいいのね?」


 言って、ふるふるっと身を震わせると、リエルの背中に大きな翼が広がって、またあの白い光が飛び散った。


「ずっと思ってました。あなたの存在は私に力をくれる。勇気がわいてくる! 不思議です」


 異空間を飛んで、リエルと抱き合った格好で昇りつめる純。そこには圧迫感も苦しさもない。快美さが身を貫く。


 天界につくと、天使や女神をつれた猛者がゴロゴロ。


「流行りってこういうことか」


「はい」


「ふーん。じゃ、始めようか」


「へ?」


 あたりは雲海一色。いや、ところどころにある人だかりの中心には暗がりがあった。そこから阿鼻叫喚の音が聞こえてくる。


 あそこだ、と純は目をきらめかせ、大きく宣言した。


「これはもう、モンスター狩りだよ!」


「え? ええ~~!?」


 モンスターなんて、天界にいるわけないのに……。


 天使のリエルは泣きべそだ。

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