第17話 人生設計

今日は、太郎さんの墓参りに阪南の公園墓地に来ている。もちろん人間の太郎さんの墓参りだ。

「自分の墓なんか見てどうするんですか? どうせならご家族のところにい

きましょうよ」

「そんな未練がましいことしたら、成仏できへんやろう」

ヘビになってる時点で成仏してないじゃん。

「自分の墓を見て、自分の人生を反省しようと思ってな」

「今から反省してどうするんですか?」

「ヘビとして全うな人生を歩むためだよ」

「ヘビとして全うな人生って、どんな人生ですか?」

「アホ、冗談や。徹に全うな人生を歩んでもらおうと思ってここに来たんだ。

人生設計をする時、自分の葬式をどんな葬式にしたいか考えろ、って言うんや」

「自分の葬式を考えるんですか?」 「そう、誰が参列してくれて、誰が何って挨拶の言葉を言ってくれるかを考 えるんや。そして、そこから逆算して人生設計をするとええそうやで」 〝ええそうやで〟? 自分は実践してこなかったということかな。 「夏の暑い時に葬式しても、みんな嫌な顔ひとつせず参列してくれるような 人生を歩まないとあかんな。『もうこんな暑い時に死にやがって』なんて言 われたくないやろ」

僕たちの前にも誰か来ていたのだろう。お花がそなえてある。


「太郎さんのご家族、太郎さんのこと忘れてないんですよ。その証拠にちゃんと花がそなえてあるじゃないですか」

「そうやな」

太郎さんは、ほっとしたようだ。

「でも、隣のお墓も〝山本さん〟ですね。花をそなえた人、お墓を間違えたのかな?」

「おい徹。人をほっとさせておいて落とすのは止めてくれるか! この花は、俺の家族がそなえてくれたに決まってるやんけ」

「冗談ですよ、冗談」

「徹、線香をあげてくれへん」

た 僕は線香を焚いて、花を生けた。太郎さんは自分のお墓に向かって黙とうをしている。僕も同じように黙とうをしたが、なんか変な感じだ。だって、今、太郎さんはヘビとして生きているんだから。

そう思いながら、薄目を開けて太郎さんを見ると、太郎さんも僕を見ている。

「徹、なんか変やと思えへんか?」

「そうですよね」

「俺は、何を考えながら黙とうしたらええんや?」

「無事、成仏できますように、ですかね?」

「アホ! 俺は生きてるんやで」

「でも、成仏してないからヘビなんでしょう?」

太郎さんは黙ってしまった。

「太郎さん、ヘビとして死んでもこのお墓に入るんですか?」

「う〜そうだな。徹が看取ってくれたらお願いするわ」

「戒名はなんてしておきます?」

「戒名、そんなこと真剣に考えるなよ、縁起でもない」

「いいじゃないですか。もう、一度死んでいるんだから」

「まさみちゃんのペットになるまで、俺はまだまだ死なへんで〜」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る