トウガラシのせい
~ 八月二十二日(火) 家庭 ~
トウガラシの花言葉 悪夢がさめた
はっ!?
目を覚ました俺は、まず初めに異常な発汗に気付いて額を拭った。
なんだこれ。
まったく思い出せないけど、悪夢でも見ていたのか?
それに、左手にひっかき傷が四本できてる。
悪夢を見てる間に無意識でやったのかな?
たしか、今日は家庭の課題に付き合わされていたはず。
自由研究的な物で、木工、服、何か作って提出することになっている。
裁縫が得意な穂咲は、洋服くらい簡単に作ることができる。
今日履いてたロング丈の花柄巻きスカートだって自作のはずだ。
だが、こいつは服ではなく料理のレシピを作ると言って……。
「あなた、居眠りなの? 今日もお疲れ様なの」
「……なに言ってるの穂咲? あれ? いつミニスカートに履き替えた?」
「あなたこそ、なに言ってるの?」
あなたってなんだよ。
そう言えば、ここ、どこ?
見たことの無い家だ。
なんだこれ?
「はい、お夕食なの。ごはんにするって言われたからね。三番目のがお薦めだったのに残念なの」
ん? 三番目?
え? あれ?
…………この指輪、なに???
ちょっと待って! これって……。
「穂咲、一つ聞いていい? 俺、ひょっとしてお前と……」
「はいあなた。あーん、なの」
脳内、ケンカ神輿がどっかんばっきんの大混乱。
どう考えてもおかしい。
だってこれ、新婚家庭としか思えないんだけど。
だから、今の俺に最も重要なのは状況把握。
それは分かっている。
分かっているのだが、目の前の危機ってやつは優先順位を狂わせるようだ。
それは、俺の口に差し出された木のスプーン。
……の、中身。
「スープ! 真っ赤! トウガラシどんだけ入れたんだお前!」
「はい、あーん、なの」
はっ!?
待て! 今思い出した!
これを口にすると、俺は気を失うんだ!
もうかれこれ四回は体験してるはず!
つまりこれは……、ループしてる!
「待て穂咲! これは、はむっ!?」
ばたん。
………………
…………
……
気付いたのに。
分かっていたのに。
次に意識を取り戻した俺に、この事実を伝える術は無いのだろうか?
俺は薄れゆく意識の中で、左手の甲にひっかき傷を一つ付け足すことしかできなかった……。
……
…………
………………
はっ!?
目を覚ました俺は、まず初めに異常な発汗に気付いて額を拭った。
なんだこれ。
まったく思い出せないけど、悪夢でも見ていたのか?
それに、左手にひっかき傷が五本できてる。
悪夢を見てる間に無意識でやったのかな?
たしか、今日は…………、待て。
五本の傷?
…………思い出したっ!!!
俺は慌てて周りを確認する。
ここは、穂咲の家の居間だ。
ということは、あの悪夢からようやく解放されたのか?
怖いよ、五回もループしてた。
「凄い汗なの」
隣には穂咲の心配顔。
スカートは、間違いなくロングの花柄。
俺は安堵から盛大なため息を吐き出して、背もたれにすべての重みをゆだねた。
「助かった。悪夢に落ちてたみたい」
「なにそれ。怖いの」
「でも……、あれ? 俺、そもそもなんで寝てたんだ?」
「夜更かしばっかりしてるからなの。一口食べただけで寝ちゃったの」
そう言って穂咲が指差す先に置かれたものは、真っ赤なスープ。
「全部思い出した! これの味見させられてたんだ!」
「ちゃんと感想言ってくれないと宿題が終わらないの。はい、あーん」
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