スイカのせい
~ 八月十七日(木) 芸術 ~
スイカの花言葉 どっしりしたもの
夏休み終了まであと十一日。
だというのに、ろくすっぽ宿題が終わっていない無計画なこいつは
今日の穂咲は家業のお花屋で使っているエプロンを引っ掻けて、室内だというのにベレー帽。
そして帽子の上にはスイカの花が咲いている。
でもそれ、帽子を貫通してないか?
おばさん、お花のためには容赦なく帽子を一個ダメにするのね。
これこそが元デザイナーというものか。
プロの心意気を目の当たりにした俺は、親子そろってバカだということに今更気付かされた。
そんな帽子をかぶされているということは、今日は朝から芸術の宿題に取り掛かると宣言していたのだろう。
芸術の課題は、管弦楽のコンクールに出るか、あるいは水彩画の提出だ。
もちろん、アルトリコーダーでは『ソ』っぽい音以外まったく出せない穂咲に楽器が弾けるはずもない。
選択したのは絵の方。
そして、穂咲はかなり水彩画が上手い。
それというのも、ぱっと見で有り得ない色を無造作に塗ったかと思うと、そこだけまるで本物そっくりになるというとんでもスキルを持っているせいだ。
穂咲曰く、だってそんな色してるしとのこと。
そう言った意味では芸術家肌なのかもしれない。
……なんて褒め言葉も、自分の不遇をごまかすための言い訳なのだ。
「ねえ、重いよ」
「モデルさんは、動かないで欲しいの」
椅子に座ったまま、かれこれ一時間。
穂咲は俺の姿を画用紙にぺたぺたと描き続けている。
モデルにされたことは、百歩譲って許してやることにしましょう。
でも、これはおかしい。
「ねえ、重いよ」
「モデルさんは、動かないで欲しいの」
俺の膝の上には、ずっしり重いスイカが乗っている。
最初は苦にもならない重さだと思っていたんだけど、これ、結構辛いのです。
気を抜くと落っことしそうだし。
足も痺れっぱなしだし。
「ねえ、重……って、なんでお前だけ棒アイスなんか食べてるのさ」
ずるいよ。
俺にも食わせろ。
「モデルさんは、動かないで欲しいの」
「そんなこと言って……、はむ?」
「はい。今は一口だけなの。絵が描けたら一本あげるの」
えっと、穂咲が食べてたアイスだよね、それ…………。
「どうしたの? モデルさんはモジモジしないで欲しいの」
「これは、その、スイカが重いんだよ」
「あと、モデルさんは顔の色を変えないで欲しいの」
「それは、部屋が暑いからだよ」
そのあとどれくらいの時間モデルをさせられていたのか。
よく覚えていない。
でも、書き終えたスイカだけの絵を見て、俺は真っ赤な顔をして怒るのだった。
「俺が持ってた意味ないじゃないか!」
「あ、さっきと同じ顔の色なの」
「うるさい!」
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