小話

三毛猫のお礼


 ここ最近、迷惑をかけている自覚があるらしい沙耶から、一つの提案があった。



「………私でよければ、ご飯作るけど……」



 不機嫌さ丸出しのところがやや気になる。

 しかし、普段、料理をしない壮司にとって、それはありがたい提案で。



「よろしく」

「……………」



 即答だった。一秒も迷わなかった。

 その迷いのなさに、沙耶は少し不満げだ。



「一回くらい『気にしなくていいよ』って言え」

「え。嫌だ」

「なんでよっ」

「そんな言葉も出ないほど、迷惑かけられてるってことだから」

「……………」

「甘えにも限度はあるぞ」

「甘えてないっ!」



 全力で否定する沙耶。しかし、壮司は首を横に振りながら、



「甘えてないやつは、平気でおんぶされたりしない」



 そう言えば、沙耶は何か言いたそうな表情をしながらも口ごもる。自分の立場が弱いことを、それなりに自覚はしているらしい。



「そういうわけで、よろしく」

「………不味くても知らないからっ」



 言い返せなかったことが悔しかったのか。やけくそ気味な沙耶は、そそくさとキッチンへと向かう。

 すると壮司は、そんな沙耶の背中を見つめながら、



「不味くねぇだろ。沙耶の作ったご飯好きだけど、俺」



 そう言って笑う。



「実家にいた頃は、おばさんが沙耶の料理、よくお裾分けしてくれたしな」

「………それ、初耳なんだけど」

甲斐谷家うちの評判よかったぞ」

「え……。皆で食べてたの……?」

「食べてた。夕飯の食卓に並んでた」

「お……母さん……っ!!」



 後ろから見ている壮司にもわかるくらい、耳まで赤くしている沙耶。よっぽど恥ずかしいのか、それとも怒っているのか……。



(本当に何も知らなかったんだな)



 と、少しだけ同情する。

 しかし、沙耶の料理が美味しかったと言ったのはお世辞ではなく、本当のことだ。



「あー、楽しみだー」

「……………」

「何作ってくれんのかなー」

「……………」

「沙耶の作るご飯美味いから、なんでもいいけどー」

「あーもーうっさい……!」



 口ではそう言いながらも、本人は満更でもなさそうだ。その証拠に、少しだけ顔がニヤついている。



(いつになったら素直になるのやら)



 そんな風に思いながら、壮司は楽しげに笑うのであった。

 ちなみに、沙耶の作ってくれたご飯は、大層美味しかったらしい。



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