第5話 新天地5

 この酒場に来るのは2度目だ。初めてアユタヤに来た時にヒデが夜案内してくれたのだ。どちらかというと街の飲んだけれが集まっている。真ん中の長いテーブルに豪の荷隊が居座っている。ヒデはその中をかき分けるように中2階のテーブルに案内する。

「この方が夜叉ですか?」

「はい。お頭です。こちらが王子です」

 彼も日本の王子だった。

「剣の強さは聞いていますよ。でもこんな美人とは。一度手合わせをしていただけますか?」

「ここでですか?」

「ここは決闘場でもあるのですよ」

 ヒデが棒を茉緒に差し出す。

「王子は剣を抜いてください」

 急に顔が真っ赤になる。1階の床に降りる。ワイワイと声が飛び交う。ヒデは茉緒の強さを知っている。王子は剣を抜くと構えたまま動かない。茉緒は片手で棒をぶら下げたままだ。合わせて長い裾の服が動きを規制している。豪が店に入ってきて突っ立って見ている。茉緒と目が合う。

 ゆっくり茉緒が1歩踏み出す。その誘いで剣を振り下ろしてくる。その瞬間茉緒が剣をよけて王子の真横に立っている。顔が触れる距離だ。そのままどさりと倒れ込む。

「王子、相手は忍者の魔王ですよ」

 豪が笑って王子を抱き起こす。そのまま2階の席に豪と並んで王子と座る。サンペット王子は茉緒に一目ぼれしたようだ。

「私の師匠になってください」

「それなら豪さんが」

「いや夜叉でないとダメです」



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