第8話 ヨウカイ退治の返討ち。
『ヨウカイ』
能力のことを聞くと、彼女はそう答えた。
妖怪、つまり魔物の類。
確かに見てくれは妖怪に見えなくもないが、だからと言ってあのマグマ野郎が妖怪だなんてあまりにも酷い話だ。
せめてもっとマシなネーミングセンスはなかったのだろうか。
それに、能力が妖怪ってそんなオカルトなことが実在していいのだろうか。
まさか、アレは能力のほんの一部で、他にも壁になったり、砂をかけたり、小豆を研いだりするのだろうか。
そのうち目玉の姿になって、息子の名前を叫んだりするのだろうか。
ところで、マグマの容姿をした妖怪は存在するのだろうか。
マグマを凝視しながら真剣に悩んでいる彼を、首を傾げながらユイは眺めていた。きっとこれからどう対処するのかを必死に考えているのだろう。そんな彼が少し微笑ましくもあった。
「な、なぁ。アレを……どうやって鎮める気なんだ?とりあえず祈り捧げる?或いは、贄を捧げれば……」
「捧げるのは構わないけど、その想いは伝わらないと思うぜ?なんせ正気を失っているからな」
手を合わせお経のようなものを唱えるソラを嘲笑いながら、ソウマは言葉を返す。と、マグマの方へ目線を戻した瞬間、彼の口から笑みが消えた。
「いつもと様子が違わないか?」
先程まで活発だったマグマの塊が、突然縦に伸び始め徐々に人の形と変貌を遂げる。彼らがいる地点から崖の下、つまりマグマまでの高低差が十メートルとすると、全長は約十五メートルにも及ぶ。その巨体の手に当たる部分が、ゆっくりとこちらの方へ伸びていった。明らかにその構えからして、何かをしようとしているのは目に見えて明白だった。
「なぁこれ、ちょっとヤバいんじゃないか?」
「さっさと片付けよう。ユイ、お願い!」
任せて、と彼女は言い放ち、マグマ巨人の前で構える。彼女の能力は強力過ぎるが、あのデカブツを一瞬で粉々にできるほどではないだろう。尤も、彼女の限界を知っているわけではないから確証はないが。
そういえば、先程からハヅキ姿が見えない。後ろを振り返ると、端の方で顔を覗かせている彼女の姿があった。お前は一体誰にコミュ障発動しているんだ。
「加減わからないし、危ないから下がってて!」
ユイは手に力を込め、冷気を対象へ放つ。徐々に温度が下がり、表面が凍り付いてゆく。
あの時味わった感覚が蘇る、筈だった。
ーーゴォオォォオオォオォ!!!
天災に匹敵するような地響きと、鼓膜が裂けるような咆哮が一帯を包み込む。凍りついていた筈の部分は、瞬時に蒸気へと変わる。同時に手だった部位が次第に丸みを帯びて、球へと形を変えてゆく。
「まさか、アレをこっちへブッ放そうとしてるんじゃないだろうな?」
勢い余ってとんだフラグを立ててしまった。少し視線が痛い気がする。そんな茶番の間にも球は膨張を繰り返していた。ユイは継続して冷気を放っているものの、鎮めるどころか、その膨張を抑えるので精一杯だった。
「おいユイ、もう少し威力上げられないのか?ちょっと本格的にヤバいぞ」
「あはは……実はもう、限界に近いんだー」
苦笑混じりに答える彼女の手は、能力の使い過ぎで手首辺りまで凍結していた。平気そうな顔をして、そう告げたのだ。限界などとうに越えている筈なのに。
そんなことも知らず彼は口にしてしまった。何一つできないくせに。彼女を頼ることしか、できないくせに。そんな無力で、頼ることしかできない彼にもできること。
「ユイ、走るぞ!!」
既にマグマの球が発射される限界まできている事はここにいる全員が予想していた。ユイの能力は限界。これ以上続けていてはユイまで暴走しかねない。ならば残された選択肢は一つ。最低かつ最悪の手段。逃げることだ。
ソラはユイの腕を半ば強引に掴み引っ張ると、そのまま背中に手を当て、思いっきり押し出した。
ここで、普通ならば、魔物から姫を守るが如く、手を引き先導する。無事逃げ切った後には、きっと急展開が待ち構えていることだろう。
しかし彼はそんな事はしなかった。否、できなかった。何故なら、既にマグマの球は、打ち出されていたのだから。
危機一髪、ユイを安全地帯まで押し出す。瞬間、彼の足場は崩れ、マグマの池へ真っ逆さまに落ちていった。
無様だ。まさか出会って間もない人間を助け、自分が何者かもわからないまま、死んでゆくとは。
ユイの腕を掴んだ方の手は、たった一瞬だけなのに低温火傷で真っ赤に腫れていた。道理で焼ける様に痛いはずだ。
そしてお決まりの走馬灯。彼らとの出会いの後に、見覚えのない、懐かしい人物が現れる。その男が、何かを発した。
「必ず、此処に戻ってこい」
なんだそれ。
最後に知らないおっさんが出てきた。折角いい最期を迎えようとしている時に、神に裏切られた感じだ。実に笑える。涙返せ。
そうは言いつつ、ソラは口を開いた。言ったところで、誰にも届きはしないが。
「短い間だったが、ありが
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