9-4
ぼんやりと、窓から外の様子を眺める。
何かを見たい訳でも、青く澄んだ空に想いを馳せる訳でもない。むしろ今は青く澄んだ空などどこにも無く、どんよりと重く圧迫感を纏った重厚な雲が空一面を覆い尽くし、想いを馳せるどころか眺めているうちに鬱々とした気持ちに満たされてしまいそうなくらいだ。そんなライトグレーの景色を見たいと思って、窓の外を見ていたのではない。
ただ、そうする他になかったのだ。
何かしらの行動をして過ごそうかと考えたものの、気が進まないのだ。やれることが無く、それでも時間が過ぎるのを無意味に待つしかなく、無気力のまま、気が付けば自室の窓から外をぼんやりと眺めていたのだ。
ふと、机の上に置かれた小さなデジタル時計に目をやってみる。
12:34
運が良いのか何なのか、たまたま見掛けた時間が1234と数字が並んだ状態にあったことに、なんとなく喜ぶ自分が居ることに驚く。
別に、並んだ数字が見られたからって、何か良いことが起きてくれる訳じゃない。12時34分に時計を見れたとしても、雄吉はその66分後に旅立ってしまうことには変わりない。
時間が刻々と進んでいることを頑なに告げてくる時計に、なんとなく嫌悪感を抱いているような気がする。いつになく、時間に対し皮肉な気持ちになっているように思うのだ。
結果的に気分が悪くなってしまい、改めて視線を窓の外のライトグレーに向ける。
何やってるのかな、俺は。
そう雄大は思う。
自分にまで皮肉になっている。
あと66分後にはこの世から去ってしまう雄吉とは違う。自分はまだまだこの世界で生きることができる。時間はたっぷりと残されているはずだ。なのに、何なのだろう。この焦燥感は?
雄吉との別れが、想像以上に惜しいことはよくわかっている。
意味もわからず溜息が出た。
ふと視線を下げると、玄関に向かって歩いてくる高校の制服姿の雄翔に気が付く。
そういえば、今日は午前中だけ部活があるとか言ってたな。夏の大会前のミーティングだとか。
クーラーがしっかりと効いた室内と違い、外は猛暑なのだろうか。しきりに雄翔は首に掛けたスポーツタオルの端で自らの額や顔面を拭って汗を取っていた。
気晴らしに、弟に声でも掛けてやるか。
そう感じて、猛暑の世界とを隔てる窓を開け放つ。
雄大「雄翔! お帰り。」
頭上から声を掛けられて、一旦は驚きの表情を見せた雄翔だったが、すぐにニコニコと笑顔で見上げてくる。
雄大「暑そうだな。」
雄翔「駅から走ってきた!」
雄大「それはそれは、ご苦労なことで。」
雄翔が駅から走って帰ってきた理由は、なんとなく察すことができる。
雄翔「雄吉兄は?」
少しばかりか、雄翔の表情が曇ったような気がする。きっと、雄吉が既に消えてしまってはいないか心配なのだろう。
雄大「大丈夫。まだ1時間くらいは一緒に居られる。」
雄翔「良かった~。」
溜息でも吐き出すような話し方だった。一瞬にして、雄翔の顔面から雲がきれいになくなったのだ。そんな弟の様子に、雄大の頬は緩む。
雄翔「それなら、とりあえず先にシャワー浴びよう。」
雄大「残念! 今雄吉が風呂入ってる。」
雄翔「え~。」
残念な顔をしっかり見てやったところで、雄翔の姿がこの部屋の窓からは見えなくなった。直後、玄関の扉を開ける音が聞こえてきたところで窓を閉める。
もう少し、弟にチョッカイ出して遊んでいようか。
そう思い、雄大は部屋を出て1階のリビングへと向かう。
ちょうど雄翔もリビングへ入ったばかりだったようで、カバンを乱雑に入り口の近くに置き去りにして、台所の冷蔵庫から麦茶を取り出している。そして、傍にあったグラスに勢い良くナミナミと注ぐと、一気に飲み干していた。更にもう一杯グラスに麦茶を入れてから、雄翔がノロノロとダイニングテーブルの前までやってくる。
そんな様子をただ眺めるだけで、なんとなく雄大の気持ちが晴れるのだ。だから黙ったまま、ずっと弟の行動を見守っていた。
じっと自分のことを凝視されて怪しく思ったのか、雄翔はダイニングテーブルの前まで来てから訝しむようにして雄大のことを見上げてくる。
雄翔「なにじっと見詰めてるんだよ?」
雄大「なんとなく。」
雄翔「何がなんとなくだよ。気持ち悪いな。」
雄大「お構いなく。」
雄翔「・・・・・。」
雄大の行動に意味がわからず嫌気がさしたようで、雄翔の視線が雄大から離れた。そして、自分から離れたあとの視線の行き先は、テーブルの上に置かれた唐揚げだった。
雄翔「おっ! 昼から唐揚げじゃん!」
喜びながら唐揚げを一つ掴んでそのまま口に咥える雄翔。
雄大「雄吉のために、おかんが作ったんだ。」
口をモグモグさせながら頷く雄翔だ。
雄大「13時40分に、おそらく雄吉は出発する。だから昼飯食べるなら、すぐに済ませた方が良いぞ。」
雄翔「了解。」
一度雄大も台所へ入り、雄翔が冷蔵庫から取り出して置きっ放しにしていた麦茶を手にして、雄翔がしたようにグラス一杯に注ぐ。そして、一気に飲み干す。
気持ちが落ち着かないためなのか、とにかく喉が渇いていた。だからと言って、喉の渇きを覚える度に台所へ麦茶を取りに行くのも躊躇われるのだ。
こんな気持ちを経験したことがあっただろうか。
一つ近い経験と言えるものならば、それはきっと大学受験当日の朝のものだろうか。
これから、今後の自分の進路を決めに行く。予備校に通い出してからの二年間の受験勉強で獲得した力で、なんとしても自らの望む道へと切り拓いてみせる。
そんな戦いへと歩み出す朝の、勇みきった感情に近いものを感じるのだ。あの日の朝も、喉がよく渇いたものだった。しかし、だからと言って飲み物を通せるほどの気力が涌かない。まるで身体を動かす力を失ってしまったかのように。
今はまるで違う。大学受験当日の朝とは全く異なるイベントが起きようとしている。それでも、身体の反応はあの日の朝と同様に感じるのは、不思議なものだと感じる。不思議なものだと思い、可笑しくなり、笑ってしまう。
麦茶をもう一杯飲み干すと、雄大は麦茶のポットを冷蔵庫へ戻してから台所を出た。そして、テーブルの上に残されていた雄吉へのご馳走を電子レンジで温め直している雄翔と二言三言話してから、自室へと向かう。
再び、ライトグレーの世界を望む。
この大地に蓋をするかのように、大量の水分を含んでどっしり重たそうな雲が空一面を覆っている。所々色が濃くなって黒っぽくなっていて、雨でも降ってきそうな感じだ。
きっと、降ってくるならまた土砂降りだな。
ゲリラ豪雨という言葉が世の中で使われ始めてから、もう何度目の夏を迎えたのだろう。一瞬にして町を水浸しに変えてしまう、魔物のような黒雲。今年の夏も何度かゲリラ豪雨の襲撃に遭ってしまい、全身ずぶ濡れという苦い思いをさせられたこともあった。
ゲリラ豪雨のような荒天の影響で、雄吉の旅立ちが延期になってくれたりしないだろうか。
雄吉が特攻出撃したときは、何度か荒天のために出撃延期になったそうだった。それならば、今日の天気がこれから下り坂で、ゲリラ豪雨でも台風でもやってくれば、雄吉はまだこの世界に居留まることが出来るのではないか? いや、むしろ、もしも1945年の6月6日の天気も雷雨や強風などで雄吉の特攻出撃
が延期になってくれてたら、そのまま毎日延期続きで終戦を迎えてくれて生き延びてくれていたなら。
やめよう、そんなこと考えるのは。考えても、もう今が変わる訳じゃない。
それに、あの日雄吉が特攻出撃して散華しなかったら、今の自分は特攻隊の人々のことに関心を持って、想いを馳せることなど無かったことだろう。仮に雄吉があの戦争を生き抜いて、復員を果たして普通の生活に戻れたとしたら、祖父の兄として直接戦争や特攻隊のことについて語ってくれることもあっただろう。ただ、そういう実体験の談話は同じようにあの戦争を経験した祖父からも聞いているが、どこか遠い過去のことのようで臨場感に欠けるものがあったように感じる。だから、お爺ちゃんになった雄吉から直接話が聞けたとしても、ここまで自分の中に波音立てて響き渡ることが出来ただろうか疑問が残る。同じくらいの年齢の、同じくらいの人生観で、その瞬間に感じ得たことをそのまま聞けたからこそ、共鳴することが出来たんじゃないか。
雄吉に気付かせてもらえたことが山のようにあったと感じる、不思議な一週間だったと思う。
雄大「もしも雄吉が生き残ったら・・・。」
ふと虚空へ向かって呟く。
この家は雄吉とその子孫が暮らして、俺たちは別の場所で暮らしてたんだろうな。
冗談めかしく、そんなことを考えてみる。
もしこの家に住んでなかったら、俺たち家族はどこで暮らしてたんだろうな。横浜に残っていたのか、それとも他の町へ移っていたのか。もしかしたらじいちゃんが養子に出されて、海村姓ではなくなっていたりして。
名字が海村じゃなかったら、俺の名前はどうなっていただろう。海村家から出されているとしたら、海村家代々で伝統になっている男子に『雄』の字を付けることもなくなっていただろうから、俺の名前はもう全然違うものになってたんだろうな。
想像に想像を重ね続けているうちに、意味もなく可笑しな気持ちに満たされていく。そして、少しばかり頬が緩むのを感じた。
むしろ、俺って生まれてきたのか?
じいちゃんがばあちゃんと出会うことがなかったら、父さんも生まれてこない訳だし・・・。
そうか! 雄吉があの戦争で死んだから、こういう未来になったのか!
雄吉が生き残ってたら、今はきっと、俺の知らない世界になってたんだろうな。
そうすると、俺が存在するためには、やっぱり、雄吉は・・・。
暗い気持ちが胸いっぱいに広がる。自ら出した結論に落胆する。しかし、その結論ははじめからなんとなく気付いていたことでもあったはずだ。
何を今更。
雄吉は既に覚悟を決めているって言うのに、俺は・・・。
大きく息を吐き出してから、限界まで息を大きく吸い込む。そしてまた、ゆっくりと吐き出す。
そんなことをしているときだった。
部屋の襖がそっと開いたのだ。
雄大は咄嗟に開いた襖の方を振り向いた。栓の無い想像を膨らませて、自分で導いた考えで動揺している自分の表情など、とても誰かに見せれるものだとは思えなかったからだ。
しかし、襖の方を振り向いた雄大の表情は、さらに間抜けなものへと変わる。そこにあった光景に、呆然とせずにはいられなかった。
雄大「雄吉・・・、お前・・・。」
禊ぎ落としのつもりか、自ら希望して風呂に入っていた雄吉が戻ってきた。
そこにあった光景とは、ただそれだけのことだ。それだけのことだった訳だが、様子が違う。想定していたこととは違う様子になっている。
雄大「その格好って・・・。」
見慣れぬ格好をした雄吉が、そこに居た。いや、厳密に言えば、むしろこちらの方が正しい身なりだと言えるかもしれない。
雄吉「うん。」
初めて雄吉と出会ったときと同じ格好だ。
この時代にやってきたばかりの、言わば、彼が死の直前に纏っていた格好。
雄大「飛行兵の服装・・・。」
小豆色のつなぎのような服装で、ゴーグル付きのフードを被り、額に日の丸印の鉢巻きをした姿だ。肩からベストのような白色の救命胴衣を付け、この真夏の日中には見るからに暑そうな格好だった。
雄吉「もう、出撃の直前だからね。飛び立つ準備をしておかないと。」
雄大「それで、その格好に?」
雄吉「雄大に買ってくれた服を着たまま往くなんて、悪いよ。僕が往ったあとも、洗濯して雄大が使ってよ。」
雄大「あ、あぁ。」
なんてこと気にしてんだよ。
そう言ってやりたかったが、言葉に出来なかった。きっと、雄吉の中では、飛行兵の服装に着替えることではっきりとした覚悟が生まれるに違いない、そう感じたからだ。
特攻出撃するときにも着込んだ大日本帝国陸軍飛行兵の服を着るという行為そのものが、雄吉自身が二度と帰れぬ
雄吉「この後さ。」
雄大「うん?」
ひと息ついてから、雄吉はしっかりした目つきで雄大の事を見詰めてきた。
雄吉「少し片付けや荷物の整理済ませてから、八幡神社へ行こうと思うんだけど。付き合ってくれるかな?」
そうか、八幡神社を最期の場所に選んだのか。小さい頃によく遊んでたと言っていた八幡神社の境内から、楽しかった思い出と共に逝くのか。
雄大「もちろんだとも。」
雄吉「うん、ありがと。」
にこやかに笑う雄吉。その両眼はとても穏やかで、双肩には何一つ力が篭もっていないほどの落ち着きを漂わせている。
これが、これから死にに往く者が見せる姿なのか?
だとしたら、どうしてそこまで落ち着いて居られるのだろう。教えてくれ!
そう叫びたい気持ちに蓋をして、ただただ室内に入ってきた雄吉の動きを目で追っていた。
雄吉はしばらくの間使った布団の片付けや、使っていた衣服の整理をした後、身に付けている物のチェックをしていた。そして、ひとしきり身辺整理が終わったところで再び雄大のことを真剣な眼差しで見上げてきた。
雄大は、そんな雄吉の眼差しが意味することがはっきりわかっていた。
ついに、出発だな。
そう思い、雄大は黙ったまま頷いてやる。すると、雄吉も何も言葉に出さず、ただ一度だけ首を縦に振ってきた。
13:04
机の上のデジタル時計は、そう時を教えてくれている。儚くも律儀に仕事してる奴だ。そんな皮肉を時計に向けて念じる自分が滑稽に思えてくる。
自室を出て、一階へ降りる。
雄吉「最期に、両親に挨拶してくるよ。」
雄大「お、おう。」
雄吉の言葉の意図について、あまりピンと来ていなかった雄大だったが、雄吉がそのまま仏壇のある和室の方へと向かって行ったのを見て、どういう意味だったのか察した。
不思議だよな。先に逝ってるはずの雄吉が、自分の両親の位牌に向かって自分の最期の挨拶をするなんて。
てか、これからそっち逝くんだから、わざわざ挨拶なんてしなくても良いような気がするのは、気のせいかな。
そんな皮肉を思いながら、雄大は雄吉とは逆の方へと歩き、一旦リビングに立ち寄る。そして、昼食を食べ終えてテーブルに向かったままスマホいじりをしながら食休みしている雄翔に、「出撃だぞ」と声を掛けてやった。切なそうな顔を見せながら立ち上がる雄翔の姿が、雄大には知らない弟の姿だったように感じる。玄関に戻ってくると、雄吉も両親への挨拶を済ませて戻ってくるところだった。
三人は玄関を出て歩き出してからまもなく、雄吉が立ち止まり、振り返って海村家の家を眺め始める。それに伴って、雄大と雄翔も振り返る。
雄吉は家屋全体をじっくりと見渡した後、庭に生えている一本の木を見詰め始める。
何という名の木なのか、雄大は知らない。一度もその名を誰かに尋ねようと思ったことも無かったし、誰かが教えてくれることも無かった。しかし、その木は自分が物心つく頃には当たり前のようにあったし、自分の生まれるよりも遙かに昔にその場所へ植えられたもののようだった。本当かどうかは知らぬが、祖父の話によると、あの戦争のときの空襲にも耐えた木なのだとか。
もしかしたら、雄吉が生きてた頃にもあそこにあったのかも。だから雄吉、ずっとあの木を見詰めて・・・。
深緑の葉をフッサリと繁らせて、まるで羽毛のコートのように纏った木と、雄吉のことを交互に目で追っていたところ、雄吉が家の方に向いて気を付けをする。
そして、機敏に右腕が動き出したかと思うと、まっすぐ雄吉の右手が額のところへ当てられていた。敬礼だった。
次の瞬間には、右腕はまた下ろされて、再び気を付けの姿勢に戻っていた。
雄吉「お世話になりました! ありがとうございます!」
隣り近所の家にも聞こえてしまうほどの大きくはっきりとした声で、雄吉は発していた。そして、深々と頭を数秒間下げ続ける。
これでもう、雄吉は二度とこの家には帰ってこなくなるんだな・・・。
いや、厳密には、
もう二度と帰れないことがわかっていながら、自分にとって帰るべき場所から去らねばならぬ感情とは、どんなに苦しいことなのだろう。どんな辛さに耐えねばならぬのだろう。
雄大にはわからなかった。同じ経験をしなければわかり得ないことなのもわかっている。しかし、まだ自分にはわかり得ないことを、すぐ隣りに立つ一つ年上なだけの青年は知っている。知ってしまっている。そのことが、雄大には重くのし掛かってくるように思うのだ。
雄吉が頭を上げて、もう一度家屋全体を眺め始める。
また数秒間眺めた後、雄吉はさっと振り返り、家や庭の木に背を向けた。そして、何も言葉に出すことはなく、家から遠ざかっていく。
その様に、雄大は息を思わず呑んでいた。
家の玄関から公道に出るまでの敷地内に敷かれた敷石たちが珍しく光るように見え、そこを歩く雄吉はまるで白い坂道を歩いて行くように見える。その白い道の行き先が、天へも達しているかと錯覚するほどに、雄吉の後ろ姿が神秘的に映っていたのだ。
雄翔に袖を引かれる。
雄翔が早く付いて行こうと言わんばかりの困惑した表情を見せていたので、雄大は思い出したように家に背を向けて歩き出した。
公道に出た所で雄吉に追い付き、彼を先頭にして八幡神社目指して歩き出す。最後に一度家の方へと振り返るかなと思った雄大の予想とは裏腹に、雄吉はもう家の方を振り向くことはなかった。
きっと、振り返ってしまうと前へと歩けなくなってしまうんだろうな。自分が雄吉のような立場なら、同じことをしただろうから。
前を向き続けなくてはとても恐ろしくて成し遂げることが出来ぬことが、世の中にはあるのだと雄大は思う。
それでも、逃げ出したくなったりはしないのだろうか? 逃げてしまおうとはしなかったのか? 抗いようのない
いずれであろうと、雄大にはとても想像つかない他の気持ちであろうと、もう雄大は雄吉に何か言おうとは思わなかった。
雄吉は既に心を決めている。それに水を差すようなことをして、心に惑いを残させたまま逝かせてなるものか。
雄大は必死に歩き続けた。踏ん張るように、一歩一歩前に進める。無機質なアスファルトにへばり付けるものなら、そうしてしまいたいくらいに、身体の動きにブレを感じるのだ。そのブレが何なのかもわかっている。
逃げ出したいのだ。
雄吉との永遠の別れから、逃げ出してしまいたいのだ。
しかし、それは絶対に出来ない。やってしまってはならない。
そう心を奮い立たせながら、歩き続ける。
いつも見ている慣れ親しんだ町並みが、今日はやたら
ジメジメとした不快感を感じる多湿で暑い空気の中、ただでさえ汗がすごく出そうなのに、雄大は更に多くの汗を掻いているように感じる。Tシャツが、水を張った洗面器に浸したようにずぶ濡れになっているのだろう。
対照的に、雄吉の背中は颯爽としている。
こういうこと自体が初めてな訳ではないからなのか、どっしりと腰が据わった大物のように見えるのだ。
本当に、
毎度毎度思うことなのだが、出会ったときから別れ際まで、ずっとそう思わされているような気がする。
まだ家を出てから5分と歩いていないはずだが、重い荷物を背負わされた状態でうんと長い距離を何時間も歩いたような疲労を感じる。
雄吉に食らい付いていくように歩き続けて、気が付けば神社の下まで来ていた。あとは、木々に覆われた古めかしい参道の石段を上まで上がっていけば、八幡神社は目の前だ。
あの石段、上れるかな?
やけに弱気な自分が居ることに気が付く。普段なら上るために何か意気込んだり、覚悟を決めたりするようなことを必要とはしない、何も変哲も無い階段だった。どこかで聞いた、3000段にも及ぶ長い長い石段を上がらなければ本堂に辿り着かない途方もないほどの長い石段ということもない。百段だってあるかどうかわからないほどの、短い階段だ。それなのに、上まで登り切れるか不安になってしまう。
不安なんかじゃない。それを言い訳にして逃げようとしているだけだろ。
じっと自分に言い聞かせるようにして、汗を拭い去る。
前を歩く雄吉はというと、何かに恐れたり惑ったりすることもなく、ただ同じ歩幅で歩き続けて石段を上っていく。
しっかりと、一緒に付いて行ってやらないと! そう
雄大の両足に、力が伝わっていく。身体全体に纏わり付いていた重い疲労感が嘘のように消えていく。歩幅が次第に長くなり、速度が上がっていく。雄吉の背中が、ずっと目の前へと近づいてくる。そして、雄吉の背中を少々乱暴に叩く。
雄吉「わっ?!」
雄大「神社の本堂まで競争だ!」
雄吉「えっ? ズルい!」
ニッと笑ってやり、前を向いて石段を駆け上がる。すぐ後ろから雄吉も駆けてくるのがわかる。
石段を登り切り、神社と石段の間を横切る公道を突っ走り、鳥居の下を越えて境内に入り込む。誰もいない八幡神社の中、一際騒々しい砂利を踏む音が鳴り響く。本堂にまで駆け上がり、鐘の紐を握り締める。同時にもう一つの手が紐を握り締めていた。
雄吉「あっ!」
雄大「おっ!」
ほぼ同時に声を発して、お互い顔を見合わせていた。雄吉の頬が少しばかり火照って紅潮している。きっと自分も同じだろう。
雄吉の顔を見たところで興奮が冷めていき、頬が緩み出す。雄吉もニコニコと笑ってくる。
雄吉「同着だね。」
雄大「そのようだな。最後の勝負は絶対勝つと思ったんだけどな。」
雄吉「だったら尚更負けらんないよ。」
声を出して笑ってやる。雄吉も、楽しそうな表情を見せている。
そんなところへ、雄翔がようやくやって来る。突然走り出して置いてけぼりにあったためか、雄翔の顔には困惑の念が滲んでいて、更に笑いが込み上げてくる。
雄翔「急に競争始めるなよな。二人して抜け駆けなんて、大人げないぞ。」
雄吉ともう一度顔を見合わせる。そして、吹き出すように笑ってやる。
不思議な瞬間だと感じる。これが最後、本当に最後だというのに、どうしてこんなに笑い合うことが出来るのか? この後起ころうとしていることこそが、偽りなのではないかと思えるくらいだ。
ひとしきり笑ってから大きく息を吸い込んで伸び伸びと両手を伸ばす雄吉。そんな笑顔の雄吉がさっと身を翻しながら雄大の背中へと周り、まるでスリの手際のように雄大のズボンのポケットに入れていたスマホをヒョイと取り上げては、興味深々に眺め出す。
雄大「何してんだよ?」
エヘヘと無邪気に笑う雄吉。こういうときの雄吉の表情は、まだまだあどけなさがしっかりと残っていて、本当に少年を見ているような錯覚に陥るほどだ。
雄吉「この電話って、写真も撮れるんだったよね?」
雄大「あぁ。写真、撮って欲しいのか?」
そう雄大が雄吉に問いかけると、雄吉は嬉しそうな笑みのまま頷いてくる。
雄吉「僕がこの時代にやってきて、元気に楽しい時間を過ごせたってこと、記憶に残しておきたいからさ。」
そうだな、記録に残しておきたいよな。
忘れさせてはいけない。2015年の日本にやってきて、共に過ごせたことだけじゃない。雄吉がその一生を精一杯生き抜いて、いろんな希望や夢を諦めて、まだまだこれからの人生を余しながら特攻隊として散華していったという事実を。
雄大は両目を瞑りながら頷く。
雄大「そうだな。せっかくだし、
そう言ってやりながら、雄吉が手にしている自分のスマホを取り上げる。
雄吉「頼むよ。」
雄翔「それなら、オレが撮りますよ。
雄大「気が利くなぁ。どこでそんな気遣い覚えたんだ?」
弟をおちょくってやる。すると、予想通り雄翔は不機嫌そうな顔で見上げてくる。
雄翔「失礼だなぁ。早くカメラ起動させてスマホ貸して。」
雄吉の笑い声が聞こえる。兄弟のじゃれ合いにほのぼのと言ったところだろうか。
雄大はスマホのカメラ機能を立ち上げて、それを雄翔に渡して本堂の石段の前に立つ。雄大に倣うように雄吉も本堂の石段の前まで来て、雄大と並んで立つ。そして、雄翔がスマホをこちらへと向ける。
雄翔「はい!」
カシャッという、いかにもなシャッター音が小さくその場に響く。
雄翔「確認してよ。」
雄翔に言われて、雄大は一度雄翔の下へ駆け寄り、たった今撮影された写真を確認してみる。
二人とも背筋がピンと伸びて直立しており、まるで学校の集合写真のような出で立ちだ。
雄大「なんだか、硬いな・・・。」
雄翔「せっかくなんだから、もっと楽しそうに笑ったら?」
雄大「そうだな。」
もう一度雄吉の隣りへ駆け寄り、「笑顔、笑顔」と言って雄吉と肩を組んでニッと笑ってみせる。それに呼応するように、雄吉も雄大と肩を組んで、ニコニコと笑い出す。この際、もっと楽しそうに見えるように、雄大は空いた方の手でピースサインを作って天へと掲げてやる。
再び雄翔から「はい! チーズ!」という掛け声が発されて、シャッターが切られる。
雄翔「今のは良いよ!」
雄大「見せろ。」
雄翔から奪うようにしてスマホを取ると、早速画像を見詰めた。
今度は思い切り笑い、肩を組み合って愉快な雰囲気に仕上がっている。これならば、雄吉が言っていたような楽しい思い出として記録に残りそうだ。
雄大「オッケー! 良い写真が撮れた。」
雄吉「本当?」
雄大「見てみろよ。」
近づいてくる雄吉にスマホを渡すと、すぐに雄吉は笑顔になり、そしてハハハと声を出して笑った。
雄吉「うん! 最高傑作だね!」
満足そうな顔でスマホの画面を眺める雄吉を見て、どこか安心する。
雄大「今度は雄翔と一緒に写れよ。」
雄翔「え? オレも、良いですか?」
何で今更そんな遠慮することあるのだろう。
そんなことを感じてしまう。
雄吉「撮ってもらおうよ!」
雄吉が背中を押してやると、すぐに雄翔は嬉しい感情を顔いっぱいに溢れさせる。笑ってしまいたくなるほどに露骨で、待ってましたと言わんばかりの表現だ。
雄翔「はい! お願いします!」
今度は本堂の前の石段の所に雄吉と雄翔が肩を組み合って並んだ。雄吉の表情はとにかく楽しかったとだれが見てもわかるものだが、雄翔の方はというと楽しそうというよりは嬉しそうな様子だ。
雄翔の奴、雄吉にはやたら遠慮するし、やけに気を利かせたりするんだよな。なんか尊敬の念でもあるのかな?
そんなことを考えながら、スマホを二人へと向けてシャッターを切る。
もう一枚ポーズを変えて撮ってやると、雄吉との記念撮影も無事終了した。
それからは、雄吉は本堂の石段に腰掛けながら神社の境内を眺め出したかと思うと、まもなく救命胴衣の裏側から一冊のノートを取り出していた。ブラウン色のレザーのハードカバーが印象的なノートで、確か特攻出撃する直前に滞在した知覧飛行場で、雄吉たち特攻隊員のことをお世話してくれた女学生たちから寄せ書き入りでもらったと言っていた。現代にやってきてからの雄吉は、そのノートを日記帳として使っていたはずだ。もしかしたら、最後の日記を書こうとしているのかもしれない。だから、雄大は雄翔と二人でそっとしておくことにした。
とは言っても、お祭りで縁日でもない神社の境内とはとても静かであり、かなり退屈な場所であった。やることもなく、ただ境内の中をフラフラと歩いてみるくらいしか時間を潰せない。
却って何かしてた方が落ち着くんだな。
そのことに気が付く。
しかし、死を直前に迎えたときに書く日記とは、いったいどんな内容になるのだろうか。せっかく書いても、すぐに自分自身は居なくなってしまうし、もし誰かに宛てて書いたものでなければ、何のためになるのだろう。
青々と繁った木の葉を見上げながら、ぼんやりとそんなことを考える。
そういえば、先週雄吉にこの町を案内したときに来たとき、
あの日のことが、とても懐かしく感じる。おどけた笑顔で、地面に転がったまま空に向かって笑い呆ける雄吉の姿が、ずっと昔の思い出のように感じてしまう。まだ、一週間しか経っていないのに。
本堂の方を向いて、雄吉が腰を下ろして日記帳に何か書き綴っている様子を見詰める。
何やら真剣な表情で、せっせとノートに向かってペンを進めているように見える。
ここへ来て書きたいことが山ほど溢れ、残り時間との勝負になって焦っている訳ではないだろうか? もしそうだったとしたら、なんとしても書き切らなければ! 書き残したことがあったままあの世へ逝ったりしたら、それこそ悔やまれることだ。
しっかり、書き切れよな!
心の内で、雄吉へエールを送ってやる。
今度は本堂とは逆の、鳥居の方を気晴らしに眺めてみる。すると、鳥居の手前にある
そんなに何度も水を掛けるほど手が汚いのだろうか?
そんな冗談を思いながら雄翔の方へ歩き出す。
雄大「何やってんだ?」
雄大の声掛けに雄翔の肩が一瞬機敏に動いた気がした。そして、ニヤニヤと悪戯っ子のような笑みを浮かべながらこちらを見てくる。
雄翔「いやぁ、神社に来たからにはしっかり手を清めてからにしないとなぁ。」
雄大「ふ~ん。」
やたら真面目な答えが返ってきたことで、逆にピンときた。
雄大「それにしては、ずいぶん長いこと手を清めてるようだけど?
雄翔「な、なんだよ!」
雄翔の顔が更にしわくちゃになる。
雄大「いくら暑いからって、その水で涼むのはやめろ。」
雄翔「あ! バレた?」
雄大「
雄翔「へ~い。ってか、オレの手は別に穢れていないって!」
雄翔に背を向けながら笑ってやる。
もう一度本堂の方を眺めると、雄吉が安堵したような安らかな表情をさせながらノートを閉じる様子が見えてきた。
無事に書きたいこと、全部書き切ったんだな。
そう思い、雄大までホッと安心する。
ゆっくりと参道の敷石の上を歩きながら、本堂の雄吉の下へと向かう。すると、雄吉の視線がこちらへと向けられて、そっと立ち上がっては、のんびりとこちらへと向かってくる。
雄吉「時間が来たから。」
雄大「え?」
思わず、雄大はその場に立ち尽くす。
時間って、もうそんな時間なのかよ?
信じられず、左腕に付けている腕時計のデジタル表示の数字を凝視する。
1
3
:
3
8
雄大「・・・・・。」
雄大は息を呑んだ。まさか、もうタイムリミットまで時が流れてしまっていたなんて・・・。
もう一度、雄大は腕時計の文字盤を確認する。
1
3
:
3
8
雄大「嘘だろ?」
雄吉「雄大。」
すぐ正面から雄吉の声がする。腕時計から視線を放し、正面を見上げると、目の前にまで雄吉が来ており、ニコニコと優しい笑顔で雄大のことを見ている。
雄吉「ありがとう。別れを、惜しんでくれて。」
そんな、ニコニコ笑いながら言うなよ・・・。
雄吉「一度亡くしたこの命、いや、厳密には、亡くなったままだけど、
雄吉の言葉を聞いていく内に、雄大は雄吉のことを直視出来なくなってきてしまっていた。目元が熱く感じるのだ。
雄大「そんな、礼なら、俺たちだって・・・。」
雄吉「え?」
逸らしてしまった視線を再び雄吉へとぶつける。
雄大「
雄吉「うん。」
雄大「それを気付かせてくれた。平和なことがありがたいことだと、実感させてくれた。貴重なことだってわからせてくれた。」
雄吉「うん。」
雄大「なんかさ、もっとしっかり生きてこうって思えたんだ。ただぼんやりと生きていくんじゃなくて、もっと自分の人生、有意義になるようにしていこうって、そう思わせてくれた。だから、礼を言いたいのは俺の方なんだ。ありがとう!」
大きく頭を下げながら、お礼の言葉を叫んでいた。ひと息入れてから、頭を上げて雄吉を見る。穏やかな眼差しで、雄吉は雄大のことを見ていた。
雄吉「僕の人生が、何かしらで役に立ってくれてるなら、本当に嬉しいよ。」
雄大「雄吉。」
雄吉「あのさ、一つだけ、約束してくれないかな?」
雄大「約束?」
雄吉「うん。」
雄吉の優しい眼差しが、真面目なものへと変わる。
雄吉「この平和を守り続けてほしい。僕たちのような特攻していくような人を、戦争で流れる血をこれ以上増やさないように、絶対に戦争なんてしないように。約束、して欲しいんだ。」
もちろんだとも。
でも・・・。
雄大「約束、するよ。でも、俺一人の力じゃ、どうしようも無いことだってあるかもしれないぜ。」
そうなんだ。たった一人の若造が平和を叫んだとしても、世間がそれに耳を傾けてくれるとは限らない。
自信なさげに雄吉との約束が守れるか考えてしまう雄大のことを、雄吉は笑顔で包み込んでくる。
雄吉「大丈夫だよ。一人の力じゃどうしようも無かったとしても、同じように考える人が集まれば、大きな力になる。そう考えてくれる人が、一人でも多くなってくれれば。」
雄大「そうかな・・・。」
不安な表情が、しっかりと顔面に浮かび上がってしまったことだろう。雄吉との約束だ。反故にはしたくない。だからこそ不安になるのだ。
そんな雄大のことを、雄吉は軽快に肩を叩いてくる。
雄吉「雄翔くんも、お願いな。」
雄翔「はい! 了解です!」
いつの間にか、雄翔は自分のすぐ右斜め後ろに立っていたことに今更気が付く。
雄吉「雄大。」
雄大「うん?」
雄大が返事をしたのを確かめてから、雄吉は手にしていたノートを雄大に差し出してくる。
雄大「え?」
雄吉「僕のノート、預かっといてよ。」
雄大「え? でも、良いのか? 女学生たちからの寄せ書きがあるんだろ?」
雄吉「大丈夫! そこのページは破ってここにあるから。」
嫌らしい笑みを見せては、左肩を叩く雄吉だった。雄吉の飛行服の左肩のパットの裏側は、雄吉にとって大切な物を入れて縫い付けておく部分だった。この時代へやってきた最初の日、雄吉はそこから生前に彼の弟で雄大の祖父の雄造からもらったという鶴岡八幡宮の御守りを取り出して、雄大に自分の素性を説明していた。
雄大「ちゃっかりしやがって。」
雄吉はエヘヘと笑う。それを聞いて、雄大も自然と笑みが広がる。
雄吉「ありがとう、雄大、雄翔くん。みんなに出会えて、嬉しかったよ。」
言いながら、右手を差し出してくる雄吉。
握手を求めてきていることはすぐにわかる。
こういうことがあるとわかってたなら、
可笑しな反省の念が広がりながらも、雄大はその手をしっかりと握り締める。雄吉の顔を見ると、どこか照れたような表情をさせている。思えば、こうやって面と向かって握手することなんてなかった。
雄大との握手が済むと、続けて雄吉は雄翔とも握手を交わす。
雄吉「もっと自分の道を信じて良いんだからね。頑張ってな。」
雄翔「はい! オレ、頑張ります! ありがとうございました!」
何のことを話しているのか、雄大にはわからない。きっと自分の知らないところで雄翔の背中を押す出来事があったのだろう。
いったい雄吉と雄翔の間にどんなやり取りがあったのだろうか。
いずれ聞くことが出来るだろうか。
雄翔との握手が終わると、雄吉は朗らかな笑顔で雄大のことを見上げてくる。
雄吉「僕の分まで、長生きしろよ。うんと楽しんで、満足いく人生にしてくれな。」
雄大「あぁ。」
雄翔「はい。」
雄大と雄翔の返事を聞いた雄吉は「うん」と呟きながら頷くと、ひと息入れてから急に背筋を伸ばして直立し、右手を機敏に動かして自身の額へと掲げた。敬礼だった。
雄吉「大日本帝国陸軍 第6航空隊、165振武隊 少尉、海村雄吉! これより、極楽浄土目指して出撃致します!」
自然と雄大も雄翔も、下手くそながらも敬礼の真似事をして、雄吉の訓示をしっかり受け止めていた。
雄翔「了解!」
吊られるように、雄大も発する。
雄大「了解!」
雄吉の顔いっぱいに笑みが広がる。
そんなとき、頭上からジェット機の轟音が鳴り響く。
雄吉「ん?」
雄大「おっ?」
雄翔「何だ?」
申し合わせたように、三人揃って上空を見上げる。
白い雲に覆われたキャンバスの中を、珍しく低空飛行していく飛行機が浮き上がるように、その翼を悠々と広げて飛んでいく姿があった。
雄大「飛行機だ。」
雄翔「ずいぶん低いな。」
あっという間に空を駆けていき、姿が見えなくなった飛行機。
視線の先の目標物が無くなり、視線を下げる。
雄大「雄吉!」
雄翔「雄吉さん!」
視線の先に見えるもの。
それは、神社の境内と本堂の姿だけであった。
雄大は肩を落とす。
そうか。今、雄吉は飛び立っていったんだ。飛行機に乗って、空を駆けていったんだ。極楽浄土目指して、飛び立っていったんだ。
雄大の心の内で、何かがすっと消えたような気がした。
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