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「今日の分、終わりました」


 宇宙にぽっかりと浮かぶ階段を上り、その先にいるお日様に「黒色矮星確認用紙」をそっと渡す。

「ん、もう朝か?よし、行ってくるか」

 彼女は仲間の分まで紙を集めると、ゆっくりと輝きを増し始めた。

 数歩下がって、親友のグドバイにも彼女から離れるよう告げようとしたが、彼はすでに僕より後ろにいた。仕事を始めた彼女は情熱的過ぎて、近づきすぎると熱くて倒れてしまうのだ。

 もう少し離れようと、後ろ歩きでまた一歩下がった。

 もう一歩、離れるべきかな。

 その時、誰かの大きな声が耳に入った。

「オガドーグリ!そこ、誰かがいたずらで落とし穴掘って……」

 僕は最後まで聞くことができずに、暗闇へと落ちていく。




 気が付くと、僕は何か緑色のチクチクした物の上に仰向けに寝転んでいた。ちょっぴり背中が痛い。

 飛び起きて辺りを見回す。

「ん?お前、星の妖精か?」

 どこからか声が聞こえる。心の中に響いてくる。少し幼い、男の子の声だ。

「どこ?どこにいるの?僕、どこかに落ちちゃったみたいなんだ」

「そう叫ばなくていい、聞こえている。そもそも君は、私に乗っかっているじゃないか」

 僕は首をひねった。どういうこと?

「君は、誰?どうして僕を知っているの?」

「私か?私は地球だ」

 彼はそう言った。

 地球……地球? 僕はさらに首をかしげる。

 地球は僕に構わず、声を響かせた。

「星を見送る妖精のことは、火星から聞いたことがある。しかし、私はまだ若者のつもりなのだが、もうその時なのか?」

 言葉の終わりの方で、少し彼の声のトーンが下がる。

 ……地球、かあ。

 確かに物知りな親友、グドバイからそんな星があるとは聞いた。

 水の星。緑の星。命の星。

 そうか、ここが……地球。

 ここで返事を忘れていることに気づき、声を上げる。

「いや、君はまだ若い。大丈夫だよ。僕はただ、落とし穴に引っかかってここまで落ちちゃったんだ」

「それなら良いけど。……最近調子悪くってさ」

 安心した声の後、不安そうな言葉が届いた。

 どうやら地球は感情が豊かなようだ。

 彼はひとつ、ため息のような音を発してから、そういえば、と言う。

「君、仲間の所まで帰れるかい?」

「……やってみる」

 緑のチクチクから大きくジャンプし、透明で薄くて小さな羽を広げる。しかし僕は空中に浮かぶことなく、そのまま元の場所に背中を打ち付けてしまった。

 痛い。

 力が足りないのだ。

 もともと僕は落とし穴に気づかないような落ちこぼれ、「妖精力」も仲間から少しずつ分けてもらわないと、飛ぶこともできない。

 それでも最近、少しは上達したと思ったのに……まだ、はばたくことすらできない。

「無理みたい。仲間を待つことにするよ。いろいろ教えてくれてありがとう」

 僕の落ち込んだ声に、地球は優しく応えてくれた。

「そっか。まあ葉っぱの上だし仲間もすぐに見つけられると思うよ」

 そこで僕は初めて、自分が乗っているのが「葉っぱ」だということを知った。

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