3
「葉っぱ」の上で、僕はさまざまなものを見た。名前は、地球が教えてくれる。
黒くて、僕よりちょっぴり小さな六本足の「あり」という生き物。忙しそうだった。
空を大きな翼で飛びまわる僕よりもはるかに大きな「からす」。つつかれそうになった。
そして「からす」よりも大きな「ひと」。地球から気をつけるよう言われたので「葉っぱ」の陰に隠れる。
そっと覗いて見た姿は、羽が無い以外、僕らと同じだった。髪が二人とも二つ結びになっていたから、女の子だろうか。
「からす」よりはずっと大きくて、おばぁ星やおじぃ星達よりはずっと小さい彼女達は楽しそうに話している。
「今日ってさ、確か獅子座流星群の日だよ。晴れてよかった。ここ田舎だし、きっとよく見えるよ」
そんなことも言っていた。
……流星群?ああそうだ、今日は一年に何度かある、おじぃ星やおばぁ星たちがやたらと落ちていく日だった。毎回、仕事が倍くらい増えて大変なんだ。
なるほど、「ひと」という生き物はそれを見て楽しむのか。
あんな星達の散り際の大群、見ていてそんなに感動するものなのだろうか。
「葉っぱ」の上でこうやって他の生き物達を見ているほうがよっぽど面白い。
少しチクチクしてこそばゆいけれど。
……そうだ、ずっとこの地球の上にいるというのはどうだろう。
地球はまだまだ若い。
ここでずっと「あり」や、「からす」や、「ひと」を見ているというのも、仕事で口うるさい星達を見送るよりは良い。
あんなの、いつの間にかいなくなっているという現象を何度も何度も見守るだけじゃ、ないか。
そうだよ、それがいい。
僕がそんなことを考え始めた時だった。
「オガドーグリ!」
不意に若い、小さな男の子のような声がした。地球とは違う、少し高めの音。
上からだ。
そちらを向くと、お日様が今日の役目を終えて赤くなってきた空に小さい点が一つ。だんだんと大きくなってくるのが見える。
いや違う、こちらに近づいているんだ。
「オガドーグリ!」
もう一度、同じ声。
ああそうだ、これはあの、僕に注意するよう言ってくれた声だ。
「グドバイ!」
僕は思わず叫んだ。
「からす」や「ひと」、それからおじぃ星やおばぁ星と比べるとても小さな体。銀色の羽を背中に生やし、そばかすだらけの笑顔を浮かべているのは、間違いなく僕の親友、グドバイだ。
その後ろには、今までともに働いてきた仲間達。
「心配したよ!いろいろな星に訊いて回っていたから遅くなってしまったよ。ごめん」
着地するなりグドバイは口を開いた。
「本当だよ」
「大変だったんだからな」
「後で星屑クッキーおごってもらうぞ」
仲間達も口々に言う。
「さあ、帰ろう。妖精力も、これだけあれば足りるだろう?」
笑顔のグドバイ。
僕は何となく後ろめたくて、少しうつむいた。
それから、口を小さく開く。
「ごめん、僕もうちょっとここにいるよ」
顔を上げると、そこには頭の上に疑問符をたくさん浮かべた仲間達がいた。
「え?なんで」「助けに来たのに?」「帰ってクッキー、おごってくれないの?」
一番不思議そうな顔をしているのは、もちろん親友だった。
「……帰りたくない理由でもあるの?」
僕は答える。
「いや、どうせ帰ってもおばぁ星やおじぃ星の見送りばっかりだし。つまんないよ」
あんな仕事、もうしたくないんだ、と僕は言った。考えてみると、帰ってしまえばこれからも一生よぼよぼの星たちの相手をしなくちゃならないのだ。そんなの、まっぴらごめんだ。
僕らの暮らす場所にはない、優しい風がひとつ、通り過ぎて行った。ほほをなでられる感触が、酷くくすぐったい。
ずっとここに居たいと皆が思うには、十分だった。そうか、確かに一理あるかも。周りからひそひそ声が漏れる。
一方のグドバイは、何か考えているようだった。彼は僕らの中で一番賢くて何でも知っている。お日様が特別に教えてくれているとかいう噂もあるくらいだ。
しばらくして、親友は小さくこぶしをもう反対の手のひらに打ちつけた。
いわゆる、「ひらめいた」のポーズだ。
「じゃあ……みんなで少し待って、ここで眺めてみる?今日のおじぃ星達」
その言葉に、僕を含めた皆が首をひねったのは、言うまでも無い。
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