第5話 さようなら、奴隷ハーレム主人公。

 「早速じゃが今日は奴隷店へ向かうぞ。」

 

 快晴と前回の憂さ晴らしの甲斐あって気分がよくなったのか、神はそう言ってスキップしている。今回ターゲットとなる転生主人公の目星がついているのだろう。

 

 「奴隷店、今回は奴隷が目標の主人公なんですか?」

 

 「いや、奴隷を買った側じゃな。奴隷の少女を買った主人公は畏まった態度を取る奴隷に対して『もっとフレンドリーになれ』と他と対等に扱い…」

 

 なんてこった、異世界あるあるの奴隷マスターじゃないか…。

 「あっ……もういいです。」

 

 「ありがとうワシも喋るだけで異世界あるあるアレルギーの症状が出るところじゃった。ま、この所謂主人公が女奴隷達でハーレム作っとるらしいんで嫌がらせしに行くぞい。」

 

 基本的に爺さんはターゲットにしている主人公、すなわち転生者の世界と顔を特定しているそうだ。その他にも転生者が微かに放つオーラの様な物を感知する事もあるらしいが何とも便利な力だ。

 少し歩くと爺さんは俺にここで待っていろと言い残し小ぢんまりとした店の中に入り、少し経って店から出てきた。その店の主人と転生者は顔馴染みらしく住んでいる場所を聞き出せてルンルン言っていた。今日は嫌に機嫌がいい。

 

 「さぁ少年、覚悟はいいか。」

 

 まるで魔王の城へ巨悪の根源を討伐するが如く目的地の主人公の元に行くのだが…

 

 今から嫌がらせをしに行くのだ。

 

 

 街を出て少し歩くとターゲットの主人公がいる屋敷に着いた。なんでも勇者で基本スキルを全て底上げ(チートで)されているため毎度報酬をがっぽり稼いでいるらしい。そのためか屋敷も見上げる程大きかった。

 

 「乗り込め!!!!絶対に首を取るぞい!!!」

 

 屋敷に着くや否や持っている杖で門を破壊して猛ダッシュを見せる爺さん。こんなにもやる気なのはそれ程目標の主人公が憎いのだろうか。

 後ろを追って付いて行き屋敷の中へ入ると、中にはメイド服を着た可愛い女の子が居た。きっと俺らを盗賊か泥棒か勘違いしているのだろう、腰を抜かして涙目であった。

 

 「む、メイドさんかの。ここの主人はおるか?」

 

 「だ、誰ですか貴方達…マスターなら出掛けてます!金目の物もありません!出てってください…」

 

 必死に訴える彼女は小刻みに震えている。可愛い…けどきっと主人公抱かれているんだろうな。

 

 「実はワシらここの主人の友人でな、サプライズで訪れただけであっての。ドアを破壊したのもサプライズだったんじゃ、許してくれまいか。して君はここのメイドさんかな?」

 

 呆れて爺さんをつつくと振り向き「嘘に決まっておろう」と呟いた。彼女はどんな反応を見せるのだろうか。

 

 「なんだ…そうだったんですか。びっくりするからやめてくださいよ。私はご主人様に仕える奴隷です。」

 

 は?

 こんな嘘に騙される…間違いなくこの女はドジっ子キャラを担っているんだろう。

 

 すかさず俺が他の奴隷達にも挨拶がしたいと言って一通り見せて貰ったが揃って美しさと可愛らしさを兼ね備えていた。見る度爺さんは不機嫌になっていくのが分かった。無理もない、こんな可愛い処女みたいな顔した女の子が奴隷にいるわけが無い。何たるご都合主義だ。

 

 爺さんはため息ついて帰るぞと言った。

 

 「いいんですか、主人公に嫌がらせしないで。」

 

 「ええんじゃ奴隷達に魔法をかけといたからの。」

 

 すると都合よく爺さんが破壊したドアの穴から主人公が帰ってきた。爺さんと俺の汚い絵面を見たのは初めてなのだろうか、酷く仰天しているようだ。

 「えっ、モーシャ…この人達誰?ていうかドアや門なんで破壊されてんの?」

 

 きっと奴隷の娘の名前だろうモーシャと呼ばれた娘は帰って来た主人を見て凄く嫌そうな顔をした。

 「あら、皆さん奴隷が帰って来ましたわ。」

 すると口々に「遅かったですね〜奴隷の分際で道草ですか。」や「やだ…帰ってきたの…」といった罵声を浴びせられる主人公。爺さん一体何をしたんだ。

 

 「ふっ、この奴隷達は今では貴様の事を奴隷と思い、自分の事を主人と思っておる。少し洗脳したまでよ。ついでにお前に対する親愛度はずっと0じゃ。」

 

 主人公は未だに唖然としていたが、今までハーレム要員だった女の子にムチで叩かれ、信じざるを得なかったようだ。

 

 「さあ少年このステッキで主人公を殴ってこい」

 

 奴隷扱いと言えどチート能力でスキルを底上げされた主人公は必死に抵抗していたが、俺が後頭部を殴ると見る見るうちに体の筋肉がしぼむように衰えた。

 

 「ガハハハハ!どうじゃ俺TUEEEEから俺DOREEEEになった気分は!」

 

 「クソ、なんて奴らだ…いきなり入ってきて…お前ら一体…」

 

 「すまないな、ひねくれ者なんだ。」

 

 変わらず快晴の空の下、大きな屋敷では気持ちいい程ムチで叩かれるいい音が鳴り響いた。

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