第4話 さようなら、ブサイク転生者。

ワープしてきた先は…これまた中世のヨーロッパのような街並みだ。

 

 「何だか似たような場所ばかりですね異世界って。」

 「異世界あるあるじゃろ、多分発想の限界なんじゃよ転生の世界も。」

 

 他愛もない話をしながら街を歩いていると道の先で小さな子供が何かを囲んで石を投げている。口々に「死ね」「ブス」と言う所を見ると誰かをいじめているのだろうか、放ってもおけないので走って止めさせに行く事にした。

 

 「こらこら、喧嘩か知らないけど弱い者イジめはしちゃいけないよ。」

 「うわ、変な奴が来たぞ逃げろ!」

 

 蜘蛛の子を散らす様に逃げていった子供達。よく見てみると囲まれて石を投げられていたのは30歳前後の男の様で、なるほどブサイクな顔だ。

 

 「あ、ありがとうございます助けていただいて。」

 

 「いえ…しかし貴方のようないい歳した大人が何故このような事に?」

 

 「お、俺まだ18なんだけどなぁ…実はここを歩いていたら子供達にバプカヌトが威嚇するポーズに似てるってんで馬鹿にされまして…」

 

 待てよ、こいつ18って言ったか?俺より下じゃないか。驚く程老け顔だな…しかしバプカヌトって何だ。ぼんやり考えていると後ろから爺さんがやっと追いついて来た。

 

 「バプカヌトとはこの世界のモンスターでそれはそれは醜い顔をしとる。丁度そこの男みたいな顔じゃ…ム、こりゃホントに激似じゃな。ガハハ」

 

 来て早々何たる爺さんだ。神を自称するにはあまりにも知性やモラルに欠けた発言をする。爺さんはしばらく男を見ながら笑っていたが急に真顔に戻り男の顔を見つめた。

 

 「お主、転生者じゃな。……死んで何者かにこの世界の平穏を守る為魔王討伐を依頼されこの世界に飛ばされたんじゃろ。」

 

 「えっ、じゃあコイツもチート能力を!?…にしてもよくそんな事まで分かりますね。」

 

 こういう人間では真似出来ない事をやってのけるのはやはり神だからなのだろうか。爺さんはドヤ顔で俺を見るとまた男に視線を戻した。

 

 「ど、どうしてそんな事分かるんですか。えぇ確かに僕は転生してきました、でも転生したところで前の世界と扱いは同じで…」

 

 「あれ、チート能力を授かったんじゃないのか?」

 

 男は眉間にシワを寄せた。

 「チート能力?そんなものは無いですよ。」


 すると爺さんは黙って男に近付くと、肩に手を置き涙を流した。

 「ワシはお主のような人間を探しておった…異世界に行く者は誰も彼も『平均的な見た目』とか言いながら普通に女の子にモテとる。しかもチート能力なんぞ貰いおって、努力する者が馬鹿を見る世の中じゃ。」

 

 男は困惑しながらも照れていた。いや別に照れる所じゃないけどな、見た目がブスで能力もないただの人間って言われてるだけだし。

 

 「と、ところで貴方は誰なんですか?随分俺の事知ってましたけど。」

 

 「ワシか、まあ言うならばお主に救いの手を差し伸べる神じゃ。イジメられる事なく不自由ない生活が出来るようにしてやろう。」

 

 あれ?話と違うじゃないか。「ちょっと待ってくださいよ。転生者はあの世に送るんじゃないんですか?」

 

 「馬鹿者が!ワシがあの世に送ったり嫌がらせするのはイキってる奴やイケメン、もしくはチート能力持ちの者じゃ。こんな救いようのないブサイク可哀想じゃろ!!」

 

 えぇ…なんて奴だ、ひねくれ過ぎて大変な事になっている。確かに可哀想な境遇のブサイクではあるけど…いや、俺が間違っていたのか?

 

 「あ、いやいいです。不自由はしてないんで。たまにイジメられますけど可愛い女の子が沢山癒してくれるんですよ、ゲヘヘ」

 

 ん?

 深刻に考えていた俺と爺さんは顔を見合わせた。

 

 「俺には能力なんて無いですけど、転生させられた時に大量のお金を貰ったんで今は可愛くて強い女の子を沢山雇ってハーレムパーティを作ってるんです。戦わないでいいし、モンスターからは守ってくれるんでさ。ゲヘヘ、しかもちょっとイタズラしても怒らないんで堪らないんですよぉ」

 

 段々下衆な笑みを浮かべて話す男を見て俺と爺さんの表情からは深刻さの欠片も無くなり、死んだ魚の目をした無表情の顔になった。

 

 爺さんは男の肩に置いた手で往復ビンタをし続け、近付いた俺にステッキを渡してきた。何を言われるまでもなく俺はその男の背中をステッキで殴りつけた。

 

 「悪いな、ワシらひねくれ者なんじゃ。」

 

 男が再び倒れると俺と爺さんは先を急ぐべく男の元を去り、街道を歩き続けた。

 


 

 後に聞いた話だが男は魔法でバプカヌトになったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る