第3話 さようなら、路地裏主人公。後編
土下座するオッサンを見るとガタイのいい男は笑いながら近寄ってきた。
「グハハハ、この"イカれた筋肉"の異名を持つこの俺を前に怖気づいたようだな!」
やばい、見るからに転生モノで見かける主人公の能力の引き立て役だ。なんだイカれた筋肉って…イカれてんの頭だろ。
「すいませんすいません、私変なおじいさんに金で雇われただけなんです…お願いします見逃してください……。」
「ふっ…いいだろう。今回は許してやる、俺が用があるのはそこの嬢ちゃんだからなグへへへ…お前は行っていいぞ!」
隣でとばっちりを受け更に涙を流し逃げる可哀想な男を横目に俺は拳を握った。爺さんから貰ったこの
「おい、何が目的か分からないがそれ以上近付くとぶっ飛ばすぞ。」
「フン、威勢のいい女じゃねえか。ますます屈服させたくなったぜ。」
笑いながらにじり寄る男のセリフまで、まんまテンプレのようだ。
仕方が無いと一歩こちらから男の方へ歩いた時、神が脳内に語りかけてきた。
『待て待て、その男を殴るつもりか?魔力に耐え切れず死ぬかも知れんぞ。』
「う、それは嫌ですけど…でも命の危機なんですよ。」
『それにじゃ、その力…チートを使って勝利を得る。こんな展開何処かで見た事ないかの?』
ハッ!?俺は知らず知らずのうちにまるで異世界転生勇者の様な事をするつもりだったのか!?
さっき吐いた自分のセリフを思い出し赤面してしまった。俺はチンピラがテンプレと言っている割には俺自身がテンプレになりかけていたのだ。とんでもない失態だ。
『それで倒して俺TUEEEEやってええんかの?イキリ勇者って言われるんじゃぞ?』
「クソ……俺には………そんな事出来ません…」
『ウム、ウム。よくぞ留まった。ま、ワシが何とかしてやるわい。』
爺さんがそう言った瞬間、男の背後から「あのー、すいません。何かあったんですか?」という男の声がした。男は俺と同じか少し下の歳だろう。ジャージを着ている以外は手ぶらの様だ。
チンピラの男は後ろを振り返り「なんだァ?ガキは引っ込んでな!」と拳を挙げると、ガキと言われた男は有り得ない反射神経と運動能力でチンピラを倒してしまった。
「まったく、血気盛んな人だなぁ…大丈夫だった?君」
呆気に取られ口を開けている俺をじっと見つめて男はきょとんとしていた。
「あれ、どうかした?あぁ…この服変だよね。実は色々あって…そうだ、この辺にギルド?的なものはないかな?」
これは……まさか…いや、確信を持つにはまだ早い。
「あの、君今の凄かったね。どうやって倒したの?今の男。」
「え?今何か変な事したのか僕…?あ、もしかして神様が言ってたアレか?………いや、今のはたまたまだよ。あはは」
『あー、もう気付いとるじゃろ。頼んだぞい。』
もはや爺さんすらその男が何者なのか言わなかった。聞く必要もない。俺は再び拳を握り無言で男に歩み寄った。
悪いな、お前自身に恨みはないけどここにいるのは許されないんだ。
男が避けるより速く放った一撃は腹に突き刺さり、男はフグゥゥゥン…という情けない声を出しながら地べたに倒れるとそのまま体が発光してサラサラと消えていった。
「終わったかの。ウム、きちんとあの世に行ったようじゃな。」
屋根上から戻ってきた爺さんがそう声をかけた。
すると先程倒されたチンピラが寝そべったまま驚いた表情でこちらを見ていた。
「テメェ…救ってくれた恩人を消すなんざ俺よりイカれてるぜ…一体何者なんだ……」
「俺は…ただのひねくれ者なんだ」
そのまま爺さんに肩をポンと叩かれ別の世界へワープするのであった。
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