第3話 さようなら、路地裏主人公。前編

ワープしてきた先はこれまた中世のヨーロッパのような街並みだったが、ガヤガヤと賑わう通りは前回の街よりも人が多い様だ。

 

 「フム…困ったの。これだけ人が多いと転生した人間を探すのに苦労するぞい。」

 

 神と言えど一般人と転生者を見分けるのは難しいらしく、人が多い所では尚無理らしい。

 

 「とりあえず激ムズなクエスト内容にめちゃくちゃ高い報酬つけとけば来るんじゃないですか?」

 

 「なるほど、チート能力を持っていれば難しい内容でも屁でもない割に高い報酬が貰える。じゃな。」

 

 爺さんは少し考える素振りを見せたが、何か閃いたらしく不気味な笑みを浮かべた。その不気味な顔でこちらを見てくるもんだから嫌な程悪寒がした。

 

 

 爺さんは俺にそこで待っていろと言いどこかに行くと数分後、いかつい男を連れて来た。目つきが悪いモヒカンの明らかに悪役って感じの顔だった。

 

 「あの、その男の人は誰なんですか。」

 

 俺が尋ねるとすぐさまこちらを睨みつけてくる男。

 

 「ど、ども…私レーソルって言います、へへ、そこでケーキ屋やってて…」

 

 なんだコイツ…見た目は悪漢なのにもじもじしながら自己紹介してきたし、しかもケーキ屋ってギャップありすぎるだろ…

 

 「ウム、それじゃ作戦を伝えようかの。簡単に言うと『襲われれるフリして勇者をおびき寄せよう作戦』じゃ。暴漢に襲われる女の子をチート能力使って助ける。まさに転生者あるあるじゃろ?ワシが少し離れた場所からチート能力の有無を伝えるからの。」

 

 なるほど、つまりこのケーキ屋の男を暴漢役に使ってそれをタイミングよく見つけたチート転生者をその場で叩く作戦だろう。まさに転生者ホイホイだ。

 

 「あれ、でもさっき女の子を助けるって言ったけど女の子いませんよね?」

 

 「ああそれは大丈夫じゃ。少年、お前がおるからの。魔法でなんとかしてみるわい。」

 

 え……?何言ってんのこの爺さん……。

 

 「そうすればターゲットも叩きやすいし、女の子の方が助けて貰える率が段違いに高いんじゃ。この役目は一般人に頼めないんでな。」

 

 ツッコミを入れたいものの、もっともらしい事を言われたせいで何も言い返せない。クソ、八つ当たりにチート転生者思いっきりぶん殴ってやるからな。

 

 

 数分後、魔法で可愛い女の子にされた俺は爺さんからネックレスを貰った。これを着けている間魔力が増幅するらしい。後はターゲットを触れば相手は浄化されあの世行き、という訳だ。

 路地裏に来た俺とケーキ屋のオッサンは、近くの建物の屋根上にいる爺さんの指示のもと早速作戦を実行する事にした。

 

 「オイコラねーちゃんよぉ、何ガンつけてくれてんだアァ?」

 

 意外にコイツ演技派だ。ここに来るまで恥ずかしそうにモジモジしていた男と同じとは思えない。思わず笑いそうになった。

 

 「い、いやー誰か助けて。誰かー」

 

 こんなので本当に来るのだろうか。転生者が初っ端から女の子をチンピラから救って惚れられるなんて都市伝説じゃないのか。なんて思っていると直ぐに人が現れた。

 

 「おい待ちな。」

 

 来た!オッサンと俺はワクワクしながら現れた男の方を見た。

 だがその男は屈強な体つきにスキンヘッド、上半身は裸で傷の跡がたくさんある。間違いなくこいつは転生者では無い。むしろ本物のチンピラなのではなかろうか、と忽ちオッサンと俺は震え上がった。

 

 『あー、そいつは転生者じゃないわ。ハハ、どうにかして追い払うんじゃぞ。』

 

 ガハハと笑いながら神が脳内に語りかけてきた。ふざけるなよジジイ。

 でも案外このオッサンなら戦えるんじゃないか、と見てみるとケーキ屋のオッサンは土下座して命乞いを始めていた。

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