第2話 さようなら、チート勇者。後編

 勇者を殴ってすぐ神が駆け寄って来た。

 

 「あ、馬鹿者。つつくだけでいいと言うたろう。」

 

 じいさんが駆け寄ってくる。馬鹿者と言いつつも顔は満面の笑みだった。

 

 「ちょ、ちょっと貴方達何なんですか!?いきなり勇者様を殴るなんてどうかしてます!」

 

 エルフ耳を真っ赤にしてシャロンが怒るのも無理はない。まったく正論で俺はイカレている。少しやり過ぎたなと後悔の念すら抱いた。

 

 「戯け!どうかしてるのはこの男じゃ!神から授かった能力をそんなくだらん事に使いおって。オラ!オラァ!」

 

 俺よりイカれてる男が隣にいた。怒っているのか笑っているのか分からない爺さんは勇者の体にこれでもかと言うほど蹴りを入れていた。

 

 「ちょっと、本当に勇者様死んでしまいます!やめて、本当にやめてください」

 

 泣きそうな顔で被さるようにシャロンは勇者を守ろうとする姿は、さっきの勇者の言葉とは真反対になっている。

 

 「さすがに可哀想じゃないですか。この女の子は何も悪くないんですし。」

 

 「ふむ、まあ憂さ晴らしはこの辺でいいじゃろ。魔法も効いておるじゃろうし。」

 

 「魔法?さっき俺がステッキで殴ったからですか?」

 

 「そうじゃ。ほれ、起きろたわけ者!」

 

 爺さんがピシャリと勇者の頬を叩くと勇者は目を覚まし、シャロンは泣きながら勇者に抱きついた。勇者は状況が把握出来ていなかったがシャロンを見てニヤニヤしている。ムカつく展開だ。

 

 しかしその瞬間、勇者の顔色がどんどん悪くなっていった。小刻みに震えながら「はわ、はわ…」と情けない声を出すとシャロンを退かして一目散に何処かへ駆けた。

 

 それを見て満足気に笑うじいさんと何が起きたか分かっていない俺とシャロン。

 

 「あの、一体何が起きたんですか」

 

 「魔法じゃ。奴は女の子に触れると腹痛を催す様になってしもうた。ま、ワシからのチート能力のプレゼントじゃ。ガッハッハ」

 

 何とも言えない陰湿な嫌がらせだ。神を自称する割には悪魔みたいな事をする。一体どんな教育を受けたんだろうか。

 

 「ひ、ひどい…あなた達一体誰なんですか…」

 

 悲しそうな目で訴えてくるシャロン。でもその男が何股もしてるのが悪いんだ。はは、テメーもだよメスガキ、勇者だからって股開いてんじゃねえ。

 

 「俺らは……ひねくれ者だよ。」

 

 そう言うとじいさんは持っていた杖で地面を一突きし、瞬く間に違う場所にワープした。

 

 「そういえばあの勇者はあの世に戻さなくて良かったんですか?」

 

 「自分の能力で女呼び寄せて腹痛起こせば神にあの世に戻りたいと乞うじゃろう。神が直接手を下す……すなわち殺めるわけにはいかんからな。」

 

 「もしあの世に戻ってなかったらもう一度シバきますよ、俺。」

 

 「フッ……少年、いい目をしておるな。」

 

 「さあ次、行きましょう。」

 

 下衆な笑いを浮かべる男二人はゆっくりと歩き始めるのだった。

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