第2話 さようなら、チート勇者。前編
オッス!オラ
「よし、ついたぞい少年。」
真っ暗な道を歩き続けると白い光が零れている扉があった。どうやらこの先に"異世界"なるものがあるようだ。本当に異世界がある事に対して驚きはあったが、それよりも展開の速さに頭がついていけていなかった。
「こ、この先が異世界……。そうだ、チート能力とか無いんですか?お決まりの。」
それを聞いてじいさんは深いため息をついて哀れむ目でこちらをまじまじと見つめた。
「あのなぁ、そんなん人間に与えたら欲望に溺れて破滅するのがオチじゃろが。馬鹿なのか?ラノベに影響されすぎじゃ。」
「え……まあ確かに。でも異世界で俺一人やっていける気がしないっすよ。」
「案ずるな。ワシが付いて行くでの、心配は無用じゃ。」
えぇ…確かに異世界にチート能力貰って行くのはありきたりな展開過ぎるから嫌いだけど、いざ異世界に行くのにじいさんと2人ってのも絵面が汚いなぁ。
「お前はそのままでええんじゃ。さ、扉を開けるぞい。」
扉はどうやらどこかの空き家の扉に繋がっていたようで開けるとそこには人が賑わう街が広がっており、人間以外にもエルフに巨人、魚人や鳥人なんてのも居た。どうやらここは本当に異世界らしい。
「うむ、近くから主人公の匂いがプンプンするわい。行くぞ少年。」
そう言ってスタスタと歩いて行くじいさんに付いて行くと、途中で横から声を掛けられた。
「そこのお兄さん、ね、ちょっと。これ買って行きません?新鮮なんですよ!」
声を掛けてきたのはエルフの少女らしい。身長は小さいが髪が長く金髪、耳はツンとしていて目がパッチりとしている。めちゃくちゃ可愛い。じいさんじゃなくてこんな子と一緒に放浪出来たらどんなにいいだろうな。
「……今このエルフと旅したいと思ったじゃろ。」
驚いて横を見ると呆れた顔したじいさんが居た。
「だってこの絵面汚くないですか?華が無いんですもん。」
「馬鹿言え、じゃあワシが女の子になってやろうか。ワシに出来ん事はないぞ。」
「なんですかそれ……なんか汚いんでいいです。」
くだらない話を爺さんとしていると、後ろから人が歩いて来た。腰に剣を下げ鎧を纏っている。かなり好青年だ。
「やあシャロン、今日も頑張ってるね。この人達はお客さんかい?」
「あっ…勇者様。はい、お客さんです。」
シャロンと呼ばれた先程のエルフの女の子は顔を赤くしてモジモジしている。勇者と呼ばれた男はイケメンスマイルでハハハと笑っていた。
は?何だこれ?勇者?なんで顔赤くしてんのこのエルフ。
「し、少年、少年、こっちに来い。」
何やら慌てた様子でじいさんは俺の腕を引っ張って人の少ない店の裏まで連れてきた。
「何ですか、あの男勇者らしいですけど。」
「その勇者は地球で死んだ男が神に異世界転生させられ、その際に"女の子にモテる"能力を貰い勇者をやりつつハーレムを作って何股もしておるとんでもないやつじゃ。」
「何ですかそれ…気持ち悪いですね。」
「うむ。早速あやつに嫌がらせするぞ。」
そう言うとノリノリの爺さんは懐から黒い色の棒を取り出した。
「これは魔法のステッキでな、これで勇者をちとつついて来い。初仕事じゃ、気を引き締めろよ。」
いきなり初仕事だそうだ。俺はドキドキしながらも、それで勇者と呼ばれる男が死んだらどうしようと一抹の不安があった。まあ俺の責任じゃないしいいか。
そうしてニコニコしながらもう一度店に戻ろうとすると、店の中から何やら話し声が聞こえた。
「シャロン、もしよかったら俺達と旅に出ないか?な、俺が絶対に守るから。」
「そ、そんな。勇者様、私なんか役に立たないです…」
「いいんだ。俺はシャロンと一緒に居たいだけなんだ。無理にとは言わないが……」
は???なんだお前、俺が守るからじゃねーよ。女の子旅に連れてくなや危ないだろ。こうやって数多の女を引っ掛けては毎晩取っ換え引っ換えズッコンバッコンしてるんだろう。こいつは死んでもいいからシバかないとダメだ。
急ぎ足で勇者の元まで行くと、ステッキで思い切り勇者の頭を殴った。鈍い音がしてその場に倒れる勇者、驚きと恐怖でその場に立ち竦むシャロン。
すまないな勇者、ひねくれた神からの命令なんだ。
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