神と異世界シバいてくる

戦士A

第1話 こんにちは、異世界。

俺はひねくれ者だ。

 

 テレビで「余命を言い渡された彼女と彼氏の恋愛」なる映画を観ながら思った。

 

 ありきたりなストーリーにお涙頂戴な結末。

 

 こんなのが何本も出てくる様じゃ皆すぐに飽きるだろう、という俺の予想とは裏腹にこの手の映画やドラマは出る度反響を集めている。

 

 理由はどうやら"イケメン俳優"、"イケメン女優"がメインヒロインが出るからだそうだ。

 

 そりゃ皆イケメンや可愛い子が大好物だからストーリーが多少ありきたりでも補正がかかってるのだろう。

 

 テレビを消して寝そべり「結局ストーリーなんて二の次なんだな」とボヤきながら天井を見つめていると、いきなり天井が真っ暗になった。

 

 「!?」

 

 驚いた俺は飛び起きると目の前には90歳越えてそうなヒゲがもっさり生えたヨボヨボのお爺さんが立っていた。

 

 「ほっほっほ、その通りじゃ。」

 

 突然過ぎる展開に唖然としたまま口を開けていた。

 

 「あの……貴方は誰ですか」

 

 「ワシは神。貴様を異世界に転生させようと思ってな。」

 

 は? 唐突すぎる状況に脳の整理が思い浮かばなかった俺は言葉が出なかった。

 

 「驚くのも当然じゃ。だが同志っぽいので嫌とは言わせんぞい。して、名はなんと申す?」

 

 神とか名乗るだけあってテンプレのような喋り方だ。見た目だけは質素な生活してるジジイみたいだけど。

 

 「黒瀬くろせ……かけるです」

 

 「ふむ。では黒瀬、貴様をこれから異世界に連れて行くのじゃが……」

 

 ちょっと待ってくれ。さっきから何を言ってるんだ?異世界?頭いかれてんのかコイツ?

 

 「あ、あの、異世界って何ですか。ていうかここどこですか。」

 

 じいさんはムッと眉間にシワを寄せ少し考える素振りを見せた。

 

 「異世界、知らんのか?貴様アニメやラノベは見た事ないのか。ここがどこかは言えん。ワシも分からんし」

 

 だんだん頭が冷静になってきた。仮にコイツが神だとして、異世界に連れて行くという事は目的は異世界の魔王か何かの討伐だろう。ありきたりな展開だ。反吐へどが出る。

 

 「異世界( 笑 )に僕が行って一体何をするんです。」

 

 「異世界に行く目的は一つ。その世界の主人公をのじゃ。」

 

 そう言うとじいさんはクルリと背を向けた。

 

 ????ますます意味が分からない。俺は異世界に行って主人公をシバく?一体何たってそんな事しないといけないんだ?

 

 「い、異世界に行くのって普通死んだ人とかが転生で行くものでは。」


 「なんじゃ、そんなラノベみたいな事ワシはせんわ。大体死者を蘇らせる様な真似する連中は全員頭イカれてる神じゃ。」

 

 アンタも充分イカれてる。なんて神を名乗る男に言ったらヒスを起こしそうだ。

 

 「しかしどうして俺を?主人公をシバくって言うのは……。」

 

 「貴様がさっきテレビを観ながら言っておった事、深く共感してな。ほれ、最近異世界に転生するアホ共が多くてな?俗に言うラノベやらアニメの主人公じゃ。ワシああいう事勝手にして女の子とイチャイチャしてるやから見ると腹立つのよ。ストーリー二の次に女の子とイチャついてるだけじゃろ。」

 

 全くおかしい話だ。頭のおかしな神を名乗るじいさんに異世界に行って調子に乗る主人公をシバくよう頼まれるなんて。

 

 でも、めちゃくちゃやりたい。

 

 「で、でもそんな私怨しえんで……」

 

 「転生したやつを元の現実やあの世に還すのが本来の目的でな。まあ本当は嫌がらせしたいだけじゃが。ちと手助けして貰えればそれでいいんじゃ。」

 

 じいさんはそう言うとこちらに体を向け直し、ニイっと笑を浮かべてこう言った。

 

 「こういうの、好きじゃろ?」

 

 俺はひねくれ者だ。

 

 返事などする必要は無い。じいさんと堅い握手をした俺はかくして異世界主人公シバきツアーが始まったのだった。

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