発作のような「癖」

逢坂一加

第1話

 怖い話が大好きなGさんだが、誰かと語り合うのはあまり好きではない。

 知り合いの誰かと語ることもなく、ネット上での怪談にも参加せず、もっぱら一人で怪談を楽しんでいる。

 といっても、人嫌いなのではない。むしろ、この上なくフレンドリーで、居酒屋でも見知らぬ人と一緒に盃を酌み交わしてしまうほどである。


「聞くのは好きなんだけどね」


 そう言ったが、Gさんは話し下手ではない。

 Gさんは接客業であり、お客様への商品説明は日常的に行っている。


「聞き終わった後、どうしても思い浮かぶのが、怪談とは全然違う『笑える話』なんだよ。むしろ、それしか思い浮かばないんだ」


 だから、怪談を語る集まりには参加できないという。

 自分がずっと観客側でいる時なら、雰囲気を壊さない……わけでもない。


「怪談を聞いている時はすごく怖いし、その感覚を楽しんでいるんだけど……

 終わった途端にね、どうしても、最近あった笑える体験を思い出しちゃうんだ。それも、聞いたら絶対噴き出しちゃう体験」


 話し手の人にそんな様子が見えてしまったら、気を悪くするから、と最近はTVの特番やCDで我慢しているらしい。

 同席していたYさんは、静かにGさんへ訊いた。


「その『笑える話』って、下ネタ?」

「あー、うん。そうだけど……」


 Gさんの答えに、Yさんは「やっぱり」と納得した。


「悪霊ってさ、笑える下ネタが苦手なんだって。Gさん、発作的に除霊しちゃっているんだよ」

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発作のような「癖」 逢坂一加 @liddel

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