第2話 鎧の中の人

「開けてぇ!お手洗いに行かせて下さいぃ!」


人間としての尊厳的にも乙女的にも危険な一大事に私は檻をがたがた鳴らして叫んでいた。

先程まで人がいないことを喜んでいた自分の脇をつんつんしたい。

実は私は脇をつんつんされるのが、擽られるより苦手だったりするのだ。

じゃない!そんなことはどうでも良い!

今は何とかしてこの危機を乗り越えないと私は乙女的に絶対に起こしてはならない大醜態を晒すことになるのだ。


「本当にやばいので来て下さい!謝るから!ベッドでトランポリンしたことも謝るからぁ!」


だがどれだけ必死に人を呼んでも誰も反応しない。

こんなにがたがた檻を鳴らしていれば誰か1人ぐらいは反応しても良いはずなのに。


「やばい!やばい!」


そしてそんな状況に私は焦る。

今はまだ我慢できない程ではない。

だけどこれから一時間、または数時間も誰もこなかったら私は確実に失敗してしまう。


「お願い誰か、来てぇ!」


だから私は必死に檻をがたがた揺らし続け、


「私は無実よぉー!あはは!」


ーーー いつの間にか檻をがたがたするのが楽しくなっていた。


頭に浮かぶのは映画のワンシーン。

無実の罪で捕らえられたヒロインが王子様を待つ王道のシーン!

尿意はいつの間にか忘れており、私は誰もこないのを良いことにがたがた檻を鳴らす。

やばい!楽しい!


「きゃぁ!助けて、王子さまぁ!」


ーーー そして調子乗っていらぬことまで叫び始めたその時だった。


「ぷっ、あははっ!」


「えっ?」


突然牢獄の外から突然笑い声がし始めたのだ。

私は何処から声が聞こえてくるのか分からず、辺りを見回す。


「本当、お前捕らえられている自覚あるのかよ!あはは!」


すると突然、牢獄の外に置いてあった全身鎧が動き出して、


「お、お化け!?」


私は思わず驚いて尻餅をつく。

さらに今更ながらに尿意を思い出し、危機感がどんどん募って行く。


「えっ?」


だが突然鎧が頭の部分を外し、私はそこから出て来た顔に言葉を失った。


「異世界人てのはこんな奴ばっかなのか?」


鎧の中から現れたのはとんでもない美形だった。

艶やかな金髪が女性のように伸ばされていて、だがその整った顔に浮かぶ野生的な雰囲気が男性であることを示している。

そしてその何処か見覚えのある目の前の美形を見ながら、そういえば異世界だし鎧使うか……なんてことにようやく気付いていた。

目の前の男性が醸し出す雰囲気に私は何故か頭がぼんやりとするのがわかる。


「王子さまねぇ……」


「っ!?」


だが次の瞬間、私は鎧さんの言葉に正気を取り戻した。


「ち、違うんです!何時もはあんなことしないんです!今日は偶々そんな気分で!」


「へぇ?広場で国王を殴り罵ったあげく逃げようとして転んで気絶。さらには下着を周りに見せつけながらベッドの上で飛び跳ねて頭をぶつけているような奴の言葉は説得力あるなぁ」


「うぐっ!」


私は何とか鎧さんを誤魔化そうとしてよく分からない言い訳を口にするが、鎧さんの呆れたような皮肉にあっさり見破られたことを知る。

この人性格悪い……

私は色々と醜態を見られた羞恥で涙目になりながら鎧さんを睨む。

確かに自分のせいだけど!本当にその通りでしかないんだけども、もう少し言い方を考えてくれたって良いじゃない!


「へぇ、この俺を睨むか……本当に面白いな君は」


だが、鎧さんが何故か嬉しそうになったので私は身体を摩りながら後ろに下がる。

どうやら目の前にいるのは鎧さんではなくて変態さんだったらしい。


「あはは!本当に面白いね君!」


だがそれでも鎧さんもとい変態さんは嬉しそうで、私は逆に心配になってくる。


だけど、それだけ笑われても気にならない程の美貌を変態さんは持っていた。


見ているだけで幸せになってくるようなあまりにも整った顔立ち。

それは人間でなく神か天使だと言われても信じてしまいそうな美貌で、


「そうか……その美貌、つまり昼ドラ的なドロドロ不倫に巻き込まれて……」


妙に頭の冴えた私は変態さんが何故こんな変態さんになってしまったかとを悟った……

あれだろう。ゴタゴタに巻き込まれているうちに変な性癖が芽生えたとかそんな感じだろう。

本当にこんなことまで一瞬で分かるとはやっぱり今日の私は冴えているかもしれない。ふふん!


「………何言っているのかも考えているのかも分からないけど、君が馬鹿なことを考えていることだけは分かる」


「ぐっ!」


だが私の得意げな気持ちは、心底憐れむような視線をした変態さんの言葉にあっさりと萎んだ。

………何で異世界で友人にいつも言われていたことを美形に言われなければならないのか。


「ふん!そんなことないですぅ!私はちゃんと論的に考えてますぅ!」


だから私は精一杯の不満を膨れた頬でアピールして全力で変態さんに抗議する


「論理的と論的を間違えるて、どうなの……」


「えっ?」


だがその結果は変態さんの私を見る視線をさらに冷たくしただけだった……

解せぬ……それに論理的て何だっけ?そんな言葉無いよね?ここは異世界だから地球では無かった言葉があるだけだよね……


「えっと、まぁ今回はここまでにしておいてあげます……」


堂々と反論したのに単語から間違っていた、そんなことがあったら恥ずかし過ぎると判断した私は万が一のことを考えてここで変態さんへの抗議をやめる。

ま、まぁ、本当に単語を間違えているなんて万が一何だけどね!

変態さんの過去に無遠慮に踏み込んではいけないってのが抗議をやめた本当の理由だったりするからね!


「あはは!」


「へ?」


と、内心で誰に言うでも無い言い訳をしているとその私の様子を見た変態さんが再度笑い始めた。

私は本当に変態さんが心配になってくるが、何故か本当に可笑しそうにお腹を抑えながら笑っているので、取り敢えず大丈夫かと見守ることにする。


「いやぁ、本当に君面白いな。この城で俺の顔色を伺うだけだったやつとは雲泥の差だ……」


「は、はぁ?」


うんでん?運転?の聞き間違いかな?

私は変態さんの言葉に意味は分からないけど一応頷いておく。


「でも、だからこそ残念だよ……」


「へっ?」


しかし、突然変態さんの雰囲気がガラリと変わる。

その突然のことに私は調子でも悪くしたのかと声をかけようとして、


「っ!?」


次の瞬間、変態さんに首元に剣を突きつけられていた。


「幾ら君であれ、国王に対する侮蔑だけは認められない」


そう吐き捨てた変態さんの目には私に対する殺意が浮かんでいた………

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幽閉された女子高生は国王に溺愛される 陰茸 @read-book-563

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