第1話 気づけば牢獄の中

「お願いだから!何でもするからアイスクリーム奢ってくださいぃ!」


それは酷い悪夢だった。

友人に必死に、それこそ土下座までして頼み込み、だが断られ炎天下の中、友人が美味しそうにアイスクリームを食べるのを見ていなければならないという……

そして私はその悪夢に上げた自分の絶叫で飛び起き、


「あれ?ここは……」


そしていつの間にか変わっていた目の前に驚いた。

あれ、何でこんなところにいるの?と一瞬私は状況を飲み込めず首を傾ける。


「っぅ!」


だがその時頭に走った鈍痛に私は全てを思い出した。


異世界に召喚され、いきなり国王を殴って説教して、挙げ句の果てに逃げ出そうとして転んだことを……


今私が檻の中にいるということはいきなり不敬罪で首チョンパされることは逃れたのだろう。

だけどもしかしたら私は来るべき死刑の時に向けて閉じ込められているだけなのかもしれない。


「間違えたなぁ……」


周りには人の気配がしなくて、私は酷く心細くなる。

何で逃げようなんて思ったんだろう……

せめてあの時話を聞こうとしていれば今の自分がどんな状況かぐらいは分かっただろうに……

何も分からないせいで私の心は不安で一杯になって涙が溢れてきそうになる。


「分からないことを考えたって仕方がないよね……」


だけど私は乱暴にに目元を拭って涙を堪えた。

確かに心細いけど、今泣いたら負けたような気がして、私は必死に涙を堪える。


「私は間違ってない……」


そして私は自分を奮い立たせるために自分にそう呟きながら今まで寝ていたベッドに腰掛けて、


「何と!?」


ーーー そのベッドが想像以上に柔らかいことに気付いた。


ぽんぽん、とベッドを叩いてみる。

すると弾むような感触が帰ってきて私は思わずにまにまと笑う。


「とう!」


そして次に私は一度腰を浮かして、少し跳んで重いお尻を一気にベッドに乗せる。


「わわっ!」


すると私の期待通りに弾むような感触がして、浮遊感と共に私の身体はぼわん、と跳ねる。


「えへへ」


そしてその浮遊感に病みつきになった私は何度も何度も小さく跳ねてベッドをトランポリンのようにして跳ねてみる。

そうしているといつの間にか何を考えていたかも忘れて、私は笑っていた。


「あっ、」


だが、突然思い出したある記憶に私はベッドで遊ぶことをやめていた。

そしてそんなお遊戯をして居る場合でないことに気づく。


「やる時が、きたのね!」


ーーー そう、柔らかいベッドでトランポリンをしたいという長年の野望が頭に浮かんだその時に。


もう、ただベッドで少し跳ねるだけなんていうお遊戯の時間はお終い。

今からは少し危険な大人の挑戦の時間だ。

私はまるでバンジージャンプを跳ぶ挑戦者のように、凛々しい顔で靴と靴下を脱ぎ、ベッドの上に素足で上がる。


「ふへへへ、」


素足に感じるベッドの感触に頬がにやけるのを抑えきれず、変な笑い方をしてしまった。

けど誰もいないから気にしない。

少し身体を揺らして私はベッドのトランポリン具合を確かめる。


「ふむふむ、これはトラポリオンの名を語れる柔らかさ……」


そして神妙な顔を作ってみるが、堪えきれず直ぐに笑ってしまった。

小さい時からずっと憧れてきたベッドトランポリン。


「あんた、無駄に運動神経が高いから天井で頭ぶつけるわよ……」


常に呆れ顔の母に阻止されて今まで実行できていなかったが、今なら出来る!

その時ふと私は今自分がスカートであることに気づく。

そういえばスカートの下は下着だ。


「誰も居ないから大丈夫!」


だけど、今そんなことを考えても意味はないと私は考えるのをやめた。

そして恐る恐る何度か軽くベッドの上で軽く跳ねて勢いをつける。


「うん、行ける!」


それから私は満面の笑みで思いっきりベッドを蹴って、


「ぐはっ!?」


ーーー 思ったよりも低かった天井に思いっきり頭をぶつけた。


「いたい!?」


しかもぶつけた所は最初転んだ時に出来ていたこぶの場所で私は痛みに悶絶して涙目でベッドの上で転がり回る。

滅茶苦茶痛い。そういえばお母さん何時も頭ぶつけるって言っていたような……

私はようやく自分が何をしていたのか悟り、恥ずかしくなってくる。

……ベッドで飛び跳ねて頭を打つなんて、恥ずかしすぎる。人がいなくてよかった……

そう私は安堵しかけて、


「ぶっ!」


「っ!」


ーーー 何者かのまるで吹き出したような声をとらえた。


顔から血の気が引いた。

仮にも花の女子高生である私のあんな間抜けな姿など見られる訳にはいかない。

もし目撃者がいれば速やかな排除を……


「誰!」


私はそう考えて大声で牢獄の外に向かって怒鳴る。

しかし私の声に反応する者はいない。


だが、それだけで納得するほど私は間抜けではない!


「そこかぁ!」


私は檻に顔をひっつけて外を覗き込む。

おそらく私の醜態を嘲笑った人間は直ぐ近くに居るはずで、


「あれ?」


だけど私は怪しい人影を見つけることが出来なかった。

そこにあるのは椅子と、そしてその椅子に座って居る全身鎧の飾り物。

人気は一切存在しない。


「なぁんだ、気のせいか……」


それでもまだ見逃して居る可能性があると私はきょろきょろと辺りを見回し、そして人気がいないことを確認する。


「大丈夫か!」


それから私は安心してベッドに飛び込んだ。

誰もいなかったことで気が抜けてさっきまで寝ていたのにまた眠たくなってきた。


「何か、忘れて居るような……」


だけど、ふと私は何か忘れて居るような気がして、頭を捻った。

恐らく結構大事なことだった気がしたのだが……


「っ!」


その時私の身体に電撃が走った。

そうだ、どうしてこのことを忘れていたのか!

これは私の今後を左右する一大事件であるのに!

私は顔を青くして、そしてぽつりと漏らした。


「トイレに行きたい!」


「………」


その時何故かはわからないが、全身鎧が私を酷く会われそうな目で見ていた気がした………

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