君の導火線


ゆっくりと目が覚めていく。


この感覚、また時を戻ってしまったみたいだった。


でも、不思議な事にいつも私を呼ぶメガ姉の声はしない。

そっとまぶたを開けるとそこは電車の中だった。


「え……あ……」


思わず後ろに伸ばした手に髪が絡む。

そう、それはずっと望んでいた電車の中までの時戻しだった。


そっと隣を見る。思った通り、そこには透が、透だけがいた。


透は電車の外をずっと見ているけど、よく見ればその頬は少し赤らんでいて、確かに今ならメガ姉の言う通り、以前の私が彼の告白のタイミングを奪ってしまった事が分かった。


(そのお詫びって訳じゃないけど……)


私はゆっくりと透の理想の告白を思い出す。


『うん、正直俺は告白とか、自分からは恥ずかしくって苦手だと思うんだよな……でも、やっぱり告白は男からしたいし、何かきっかけで告白出来たらそれだけで充分かな』


そして、私から、そっと透の小指に小指を重ねた。ピクリと透の手が反応する。


「ねえ、この髪の長さ、本当に似合ってると思う」

「お……おう」


思わず少し笑ってしまう。

相思相愛の実体験がある私はこの状況にズルいくらい余裕があった。


こちらから話しを振っても驚いて告白のタイミングを逃してしまった透だったけど、せっかくのやり直しなのだ、私は彼に理想通りの告白をして欲しかった。


「そっか、じゃあこの髪のままにしようかな……」


それでも、そんな思わせぶりな、馴れない事を言うというのはとても恥ずかしかった。


思えば、そんな “思わせぶり”をこの一年だけで何度も頑張ってくれていたのだと思うと今まで以上に透を愛しく思えた。

そして、透は口を開く。


「み、美帆、俺さ……ずっと前からお前の事好きだった」

「うん……私も……」


私は透の肩にもたれる様に顔を預けた。

二度目だというのにやっぱり好きな相手に告白されるというのは気恥ずかしく、嬉しいものだ。


私から告白したこの前とは違う、触れた肩から透の緊張が抜けるに連れて、


彼がどれだけ緊張して、

どれだけの勇気を出して、

どこまでも私を好いてくれていたのかが分かった。


透は私の頭に手を置くだけで、しばらく力の抜けた様子で笑う事しか出来なくて、


前と比べるとちょっとロマンチックではなかったけれど、こっちでのファーストキスはその分何か素敵なものにしてもらおうと私は決めていた。

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