第2話
小国ラスターは、大国グンガルグの容赦のない攻勢により二日と持たず陥落した。世界に五つしかない大水源を持つ国は『不可侵の統制』により固く保護されていたはずであり、有事の際、ラスターを守護するはずの同盟国がグンガルグの狂気の前に沈黙したことは約定が一瞬のうちに形骸化したことを意味していた。
ラスター陥落から、ひと月が経った頃、元より十分な供給を受けていなかった周囲の村々では残り少ない貯水の奪い合いが始まっていた――。
「この奪い合いは、世界で起こっていることの縮図でしかないのだろうな」
竜騎士は上空から村の惨状を冷めた目で見つめていた。大水源を失った混乱が引き金となり、人々が漠然と抱いていた未来の不安が一気に顕在化してしまった。そもそもが限界だったのだ。ここ十年、人口が増えすぎたことで、水の需要が過剰となり、供給制限が敷かれていたことが人々の飢えに拍車を掛けていた。
なんとか貯水庫を死守しようと村民の投石を受け止め続けている衛兵達が見える。兜は衝撃で歪み、その役割の半分も果たせていないようだ。大盾に身を預けるように三人が陣形を組んでいるが、安定しているのは前面だけだ。側面からの攻撃には対応出来ていない。わずか二十の村民の前に選りすぐられたはずの衛兵達は圧倒されていた。
村民の中には本来衛兵とともに村を守るはずの自警団の姿があった。彼らが守る側ではなく、奪う側に回ったことを意味していた。
かちり、奥歯が音を立てた。
冷めた目で戦況を見つめていた竜騎士の目に鈍い光が灯った。竜騎士の頭の中では目の前の光景が理不尽極まりなかった自国の窮地(最期)と重なっていた。
もしも、同盟国が力を貸してくれていたら?
もしも、約定が破られていなかったら?
もしも、自分が間に合っていたら?
現実主義者の竜騎士が笑った。普段の彼が嫌う、たらればの思考に心地良さを感じてしまったから。あり得ない願望だとしても、もしどれかひとつでも果たされていたなら、あのような悲劇は起こってはいなかったはずだ、と思いたかったのだ。
「俺はここにいるぞ。今度は救ってみせる」
愛竜とともに竜騎士は空を駆け降りた。
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