第16話 帰ってきた総理大臣
――半年後――
「日下部総理! お久しぶりです。大杉が帰ってきました~」
N国総理官邸があった場所の地下五階には、当時の与党幹部しか知らない秘密の総理執務室があった。
その部屋の重厚な扉を勢いよく開けて飛び込んできたのは大杉官房長官だった。
「君は大杉君か? アハハ。スカートを
「そうですか……これでも化粧はしてきたんですけどね」
大杉官房長官の唇が赤く見えたのは『夢をかたり菜草の果実』を食べすぎたせいで無く、似合わない口紅のせいだった。
「でも……頭のてっぺんは薄いままなんだなぁ。しかし……やっぱり気持ち悪いぞ」
「そういう日下部総理だって……ターバンを巻いたりして。インド人そのものじゃないですか?」
「身体に染みついた習慣は、顔をすり替えてもなかなか抜けないらしい……」
シワの深い顔以外はすっかり屈強なインD国の若者の身体に変貌していた。
日下部総理と、ダイナマイトボティの大杉官房長官は久しぶりの再会に抱き合って喜んだ。
「しかし、上手く行きましたね総理……感無量です!」
ピンク色のハンカチで涙を
やはり身体の大半が女性ホルモンの為なのか、女性に傾倒するようだ。
元々傾倒気味ではあったが。
「G7の奴らも……まさか『夢をかたり菜草』が、実はN国で開発されたものだとは気づかなかったみたいだな……」
頭に巻いたターバンを解きながら言った。
やはり日下部総理も前頭部は禿げ上がったままである。
「世界の最新技術はアメリカの物だと信じ込んでいますからね」
「そうなんだ。特にあの……クサカ・ベン大統領の奴は」
日下部総理は吐き捨てるように言った。
全てにおいて狂言臭いUSエ! 大統領が嫌いだったようだ。
「あの国の連中は、他国が開発したなんて認めたくも無いだろうし、思ってもいなかったでしょうね」
大杉官房長官も吐き捨てるように言った。
彼は大統領補佐官のオウスキンが嫌いだった。
しかしG7首脳の間では、よく似た二人と噂されていたことを知らないようだ。
「まぁ……だから、簡単に事が運んだんですけどな」
鼻高々の総理である。
「しかし……さすがに、
「身体の養分だったら、その辺の肥料の方が上だって気づきそうなものだが、やはり空腹のために……」
総理が、頭の上で人差し指をクルクルまわして、パーのように手の平を広げた。
「『夢をかたり菜草の果実』の秘められた力を舐めるんじゃないつーのな」
総理椅子に座ったまま、楽しそうにクルクル回りながら脚を伸ばして喜びだした日下部総理である。
若者の身体を楽しんでいるようだ。
「しかも、その果実を食べ者に『人格と顔が――のり移る』だからなぁ~」
「……とにかく凄い果実を開発したものですね。我が国の農業技術部は天才集団ですよ」
南米の女性の身体なのだろう。
デカイお尻を左右に振って誇張しながらセクシーポーズでアピールしてくる大杉官房長官である。
天頂部が薄い事は完全に忘れているようだ。
「『世界全部N国人化&世界征服計画』大成功だな大杉君――私達は、世界の歴史に名を残したぞ!」
「そうですよ総理! あなたは、世界の日下部泰三総理大臣です!」
「君は、世界の大杉官房長官だよ!」
「夢を見ているようだな……」
「夢を見ているようですね……」
二人の夢見る会話は、終わることなく続いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます