第15話 夢をかたり菜草

 宇宙ステーション、深海の潜水艦、各国のミサイル発射場、およそ人を不幸にしてしまうだけに作られた地獄の口から真っ赤な火柱が上がった。


 世界中が震えた。


 慈悲を知らないミサイル群はN国の領土に我先にと降りそそいだ。


 数秒後、大地を引き裂く轟音ごうおんが地球を包み込んだ。


 古き建造物と近代建造物の調和を誇っていたN国の歴史と大地は、泥船のように簡単に傷つき崩れ去った。

 奈落ならくに落ちていく数えきれないN国の人々の悲鳴は――消えゆく魂と祖国をいつくしむ鎮魂歌レクイエムとなって響きわたった。


 またたく間に瓦礫がれきの山となった大地には、生きとし生ける物の姿は微塵みじんも存在しなかつた。


 荒涼こうりょうとした大地の空に、数えきれない飛行機、ヘリコプターが集結したのはそれからたったの二日後だった――。

 世界はこの日を待っていた。


 世界は、密かに用意していた『バイオ新種! 夢をかたり菜草な、そう』の種を、N国の新しい住人気取りで、隅々まで振りいた。


 四季を抱えたN国の風光明媚ふうこうめいびな環境を喜んだ『夢をかたり菜草』は、信じられない勢いで息吹いぶき始めた。


 緑の小さな芽は、またたく間に成長し大地を埋めつくした。


 同時に、太くたくましい『鬼の腕のようにゴツゴツした根』は人間を求めて地中深く伸びて行った。

 そして様々な形で生き埋めにされているN国民一人一人を見つけ出すと、蜘蛛が糸で獲物えものを取り込むように優しく包み込んだ――養分を吸収する苗床として。


 一カ月後――。

 N国民の養分を吸い取って急成長した『夢をかたり菜草』は、一本一本に真っ赤な果実をたわわに実らせた。


 飢餓に苦しむ世界中の人々は我先にと収穫に飛びついた。


 甘みと、ほのかな酸味、そして瑞々みずみずしさ――。

 旨いと感じる全ての味覚が絶妙なバランスでミックスされた芳醇な果実は、世界中の人々の舌をうならせた。


 アッと言う間に世界の人々は、この果実のとりこになってしまった。


 地球人類は、N国人の犠牲によって――滅亡を免れた。


 かに――思われた。


 『バイオ新種! 夢をかたり菜草』の隠された副作用が――新しく息吹いぶき始めるまでは――。

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