第11話 備蓄していた食料

――国家DEBU法 第四条――

【全てのN国民において、男七十㎏以上、女六十㎏以上の者を捕獲した者は、すみやかにDEBU交換所に持参し、その報奨金として捕獲した家畜の十%の人肉ミンチの提供を受けるものとする】


 国家DEBU法が施行されて一ヶ月が過ぎたが『DEBU機動部隊』はやはり、未だ一人の「食料も家畜も」確保が出来ていなかった。

 何度も言うが、人を食った態度しか取り柄のない旧N金機構の人間がDEBU機動部隊である。

 当然といえる。


 そんなある日の午後。

 総理執務室のドアが勢いよく開いた。


「大変です! 総理」

 総理執務室の大きな窓から差し込む日差しを禿げ上がった頭頂部で乱反射させながら大杉官房長官が日下部総理に駈け寄って来た。

 当然内股である


「どうした……そんなに慌てて」

「政府備蓄の食料が底をつきそうなんです」

「……まさか」

 一日でも長く食料を持たそうと、一週間に四日は絶食をして水だけで空腹に耐えている総理である。

「寝耳に水」の水でも、もう水は飲みたくない。


《プチン》総理の脳内で何かの切れる音がした。


「我々の暴飲暴食計画が水泡に帰してしまいそうです……」

「そんな事より、頭が光って眩しいよ」

「そんな? 私の頭より大事な話をしているんですよ。備蓄食料が……」

「備蓄、備蓄とうるさいよ君は。セクハラで訴えられるぞ」

「それは、ビーチクでしょう。乳首の隠語で盛り上がる状況じゃないでしょう」

「盛り上がっているビーチクも良いけど、小さいビーチクも良いぞ」

 余りのショックで思考能力に繋がる海馬が切れてしまった日下部総理である。

 目がうつろで焦点が合っていない。


「大丈夫ですか?」

 話に乗って来ない総理を怪訝けげんに思い老眼をかけ直した。

 そして総理自慢の鼻先に顔を近づけて観察をする大杉官房長官だった。

 青春ドラマの教頭先生のように鬱陶うっとおしい行動である。

 まぁ、青春ドラマ自体もう時代劇のようなものだから、兼ね合いに出されても鬱陶しいだけである。


「総理! 目を覚ましてください!」

 禿げあがった前頭部を手の平で叩いて刺激した。

 政府においても秩序が消えかかっている。


「ん! なんだ? どうした大杉君……」

「政府備蓄の食料が底をつきそうだと聞いて、思考回路がショートしたんですね……」

 正しい監察結果である。


「そうだ! それだよ。大丈夫だ……どうしたって?」

「備蓄していた食料が、どんどん減ってきているんですよ。あと半年持ちません」

「なんだって! 何故そんな事が……『まだ、二年間は大丈夫です』と……」

「確かに、食糧管理部署のカバみたいな顔した担当はそう試算していたんですが……」


「それって……やばくねぇ?」


 やっと我に返った日下部総理は、国の存続を左右する事態であることにチャラく気づいた。

 狼狽を隠そうともしないで取り乱し始めた。

 しかし、こういった時でも振り乱す髪が少ないと少しだけ毅然きぜんとした態度に見えるから便利である。


 嘘だと思うなら確かめてみるとよい。

 薄いのが自慢のあなたなら、もしも冤罪(免罪でなくても)を受けてしまいハチャメチャに取り乱した後――

 『それでも僕はやっていない』と弁明してみるのだ。

 『確かにずっと毅然とした態度だったから、犯人じゃ無いんじゃないか?』 

 『我々の間違いかな』と、警察に思わせて――逃げられるかもしれないのだ。


 あなたは、そんな素敵な風貌なのだ。


 まぁ、試さない方がよいとは思うけど――。

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