第3話 国家DEBU法

 その日、N国全体をおおうようにドス黒く陰鬱いんうつな雲が広がり、ときおり大きな雷鳴が四つの大きな島を震わすようにとどろいていた。

 そんな中、国会議事堂の本会議場において、国の行く末を決める重要な『法案』が審議しんぎされていた。

 しかし、その法案を廃案に追い込む気力とパワーがある人間は皆無に等しかった。

 高齢議員達は後先も考えず、ただその日の晩御飯の事だけ考えて、議決投票に白札を投入した。

 法案は満場一致で可決され――法律となった。


 人類史上において最大のタブーとされてきた『人肉を食する』法律が歴史の一ページを飾った。


 国家DEBU法

《Dead men tell no tales(死人に口なし)/ Butter is gold in the morning, silver at noon, lead at night(朝のバターは金、昼は銀、夜は鉛)》

通称――デブ法(人肉喰ってデブになろう)が公布された。


 国家DEBU法 第一条

【全ての人肉を管理監督する行政機関はDEBU省とする。DEBU省は超法規的措置をとっても任務の遂行を最優先とする。なお、DEBU省は内閣府直轄省であり、その最高責任者は内閣総理大臣とする】


 国家DEBU法 第二条

【全てのN国民において、男七十㎏以上、女六十㎏以上の者は人間としての全ての権利を剥奪し、N国民全ての『食料及び家畜』とする】


 国家DEBU法 第三条

【全てのN国民においては、過度なダイエット、医療による脂肪吸引など、自然増減以外の体重調整を実施した者は、第二条に照らし合わせ厳罰げんばつに処すものとする】


 国家DEBU法 四条

【全てのN国民において、男七十㎏以上、女六十㎏以上の者を捕獲した者は、速やかにDEBU交換所に持参し、その報奨金として捕獲した家畜の10%の人肉ミンチの提供を受けるものとする】 


 国家DEBU法 第五条

【全てのN国民において、人肉を食す際には、DEBU省監修の『DEBU料理レシピ百選』を参照し、レシピ以外の料理法で調理をしてはならない。違反した物は第二条に照らし合わせ厳罰げんばつに処すものとする】


 国家DEBU法 第六条

【全ての日本国民を空腹から解放して、未来永劫、夢を語れる国家を構築する】

 歴史の恥部と呼ばれる法律の概要がいようである。

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